というわけで、皮膚呼吸についてはそれほど深刻に気をつけて生活していく必要はなさそうです。

 では、どうして全身に金色の塗料を塗られて芸人は気分が悪くなってしまったのでしょうか? 考えられる理由は、塗料の成分が大量に皮膚から吸収されたためです。

 一般的に、塗り薬などは皮膚からの吸収によって病気を治療するわけですが、広い範囲に薬を塗ると血中内の薬の成分濃度が高くなることがあります。

 私たち皮膚科医がよく診るケースとして、ビタミンD3が有効成分の塗り薬を広い範囲で使い続けると血中濃度が上がり、高カルシウム血症になる危険性があります。塗り薬を使う際は、塗る範囲や量に気をつけて、全身への副作用が起きないように注意しながら処方をしています。

 そもそも体に塗っても害がないものかどうか、塗った場合に血中濃度が上がるかどうか、体内に吸収されても健康被害が起きないかどうか、事前に検査されたものしか皮膚に塗ってはいけません。

 SNSなどでは、化粧をする際に皮膚呼吸を気にする人もいるようです。

 血液の酸素化という本来の呼吸の意味を考えると、化粧をいくらしても問題はありません。化粧のせいで呼吸が苦しくなる心配はいらないでしょう。

 また、化粧の成分が血中に入って体に害を与える可能性も極めて低いと思います。化粧は一般的に顔だけにすることが多く、それくらいの面積であれば大きな問題は起きないでしょう。

 まれに、皮膚から吸収された成分が子宮にたまって不妊を起こす、いわゆる「経皮毒」と呼ばれるものを説明されている人もいますが、これはデマなので気をつけてください。

 では、化粧をずっとつけっぱなしで大丈夫か、というと話が変わります。

 私は患者さんに、家に帰ったらなるべく化粧を落としたほうが良いと指導しています。

 理由は二つです。

 肌への刺激と、かぶれが起きやすくなるからです。

 化粧品の開発が進みいくら肌に優しいものが増えたとはいえ、一日じゅう毛穴を塞ぐのはよくありません。ニキビや湿疹の原因となります。さらに、油性成分のファンデーションはニキビを引き起こしやすいため、ノンコメドジェニック(ニキビになりにくい)テストを済ませている商品を選ぶと良いでしょう。

 また、長時間化粧品が肌についている状態がつづくと化粧品に対するかぶれが起きる可能性も増えます。なるべく早めに化粧は落としてあげるのが正解です。

 以上のことから、化粧のつけっぱなしはその後の皮膚トラブルにつながるため良くないのです。

 皮膚が呼吸をして酸素と二酸化炭素を交換する機能はあったとしてもごくわずかです。「皮膚呼吸ができなくて具合が悪くなる」というのは都市伝説に近いものの、皮膚そのものを守るために、皮膚に塗るものはちゃんとしたものを選ぶのが大切でしょう。

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