昨年末から年明けにかけて、世界同時株安が進行した。中でも日本市場の動揺ぶりは極立っている。安倍晋三総理は、アベノミクスの成果をことあるごとに吹聴しているが、誰がどう見ても、アベノミクスは失敗だ。
安倍政権は6年も続いた。派手にぶち上げたアベノミクスが成功していれば、今頃、国民は将来に希望を抱いて心躍らせ、あるいは、少なくとも心安らかに、新年を迎えられたことだろう。
しかし、国民にとって、最大の関心事である「実質賃金」(名目の賃金から物価上昇分を除いた賃金)は、安倍政権成立前に比べて大幅減少している。これ一つだけをとっても、アベノミクスは「失敗」の烙印を押されても仕方ない。
もちろん人の幸福はお金だけでは測れない。しかし、お金の不安が大きければ、とりわけ人生100年時代と言われる今日、老後の不安がとてつもなく増大し、とても心安らかに暮らすことはできない。
◆「70歳まで働ける幸せな社会」は狡猾な作戦
安倍総理は、こうした人々の不安に気づいているのだろう。昨年来、「70歳まで働ける社会」が幸せであるかのような宣伝を始めた。しかし、これはまやかしだ。70歳まで働いて、なるべく年金を受け取らないようにしてもらわなければ、日本はもうやって行けないということを覆い隠すための狡猾な作戦である。
朝日新聞デジタル版の世論調査(19年1月4日)では、何歳まで働くのが良いかと「理想」を聞くと65歳以下までが合わせて55%だったという。しかも、そう考えているのが、中高年層だというのではない。実は、18~29歳の8割、30代の7割が65歳以下の現役引退を理想だと答えている。
同じ調査では、理想とは別に、「現実に」働かなければならないのは何歳までかという質問をしている。これに対する回答では、70歳以上まで働かなければならないという答が52%で過半だった。男性に限ると、65歳までで引退できると考えている人は、35%しかいなかった。
この結果からわかるのは、かなりの人が、「65歳を過ぎたら働きたくないのにもかかわらず、実際は働かざるを得ない」と考えているということになる。年を取って、もう十分頑張ったと思っているのに、嫌々もっと働かされるという意識だ。これを放置すれば、もちろん政府に対する大きな不満の原因となる可能性が高い。
安倍総理が、国民に対して、「70歳まで働けるなんてなんて幸せなんだ」という考え方を刷り込みたいと考えるのは、こうした不満を消すために、人々のマインドセットを変えてしまおうという試みの一つだと考えるとわかりやすい。ある意味、権力者の防衛本能としては、当然のことなのだろう。