そう笑わせながら、自分を客観視できる冷静さとクレバーさが、武田の“ストロングポイント”でもある。今季12試合目の登板となった6月29日がプロ初の中継ぎ登板。それまでの111試合はすべて先発で、しかもこの日のような「満塁での中継ぎは初めてです」。それがCS初戦で、しかも試合の行方を左右する重要な局面。「球威のあるピッチャーが行った方が抑えられると思った」という工藤監督からはブルペンに対し「4回から行けるようにしておいてくれ」と指示が出ており、武田も「2回からキャッチボールを始めた」と振り返る。心身ともに“準備”はできていた。

 最大の武器は、大きくタテに落ちるスライダー。カーブのように見えるが、武田本人はあくまで「スライダーです」という。ただ、落ちる球は打者の手前でワンバウンドになる恐れがあり、暴投が失点に即つながる満塁の場面では投げにくいのが投手心理。それでもマウンド上で捕手の甲斐と打ち合わせた武田は、打者の大田が「初球から来ると思った」。走者がいるから、落ちるスライダーは投げてこないと考える打者心理を踏まえ、あえてストレートを待つ相手に対し、ストレートでの「力勝負」で詰まらせることができるのが、リリーバーの必要条件であったりする。それでも、バッテリーがここで“選択”したのは「ボールでいい」(武田)。

 初球は得意の“縦スラ”だったが「曲がらないスライダーでした」と武田。その抜け気味の球が、大田のタイミングを少しばかり狂わせたのだろう。弱い当たりの三塁ゴロでアウトカウントが1つ増えて2死満塁。続く近藤には、150キロ、149キロとストレートを2球内角へ続けて2ストライク。150キロの外角球をボールにし、1ボール2ストライクとカウントを整えると、4球目のフィニッシュに選んだのは、144キロのフォークだった。

「抜けたんですけど、逆にそれがよかったのかな?」と謙遜するが、近藤にしてみれば、縦に落ちてくるスライダーが頭の中にあるから、ストレートの軌道で、最後にストンと落ちるフォークは想定外だろう。バットは空を切っての三振となって追加点を阻むと、続投の5、6回はいずれも三者凡退。日本ハムの追い上げムードを完全に消沈させた。

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武田の「35球」が日ハムをストップ