3年契約で2500万ユーロ(約32億5000万円)とも言われる巨額年俸分の回収はここからが本番だろうが、三木谷浩史代表取締役会長が5月24日の移籍会見で「イニエスタは神戸に留まらず、日本サッカー界、アジアのサッカーにも大きな影響を与えてくれると思う。彼の存在によって日本サッカーが注目を集めることになる。世界から注目を浴びるような仕掛けをどんどん作っていきたい」と話した思惑の一端はすでに進行しつつあると言っていいだろう。

 チーム成績が暫定4位まで上がり、営業面も順風満帆と目下、神戸にとってのイニエスタ効果は凄まじい。ただ、その恩恵がクラブ外まで及んでいるとは言い切れない部分がある。兵庫県サッカー協会・技術委員長を務める日本代表DF昌子源の父・力氏(姫路獨協大学監督)は「地元トレセンの優秀選手にイニエスタのプレーを見せるような試みがあってもいいのではないか」と意見を口にする。

「イニエスタが来てからノエビアスタジアム神戸に超満員のお客さんが入っているのは知っていますが、地元の子供たちを招待するような話はまだないようです。トレセン活動を頑張っている少年たちの中から選抜された何人かが実際にスタジアムに足を運べたり、練習場で見学できるようなチャンスがあれば、どれだけモチベーションが上がるか分かりません」と昌子氏は地元との連携強化を熱望する。

 クラブ側も安達貞至元社長が経営に携わっていた2000年代後半は、吉田監督や岡崎慎司(レスター/イングランド)らを育てた高校サッカーの名門・滝川第二高の黒田和生元監督を普及育成事業本部長に就任させるなど育成改革に乗り出し、地域との連携強化を図っていた。2009年には育成センター「三木谷ハウス」を作ってユースやトップの若手選手の食事面のケアも行うようになり、小川慶治朗(湘南、レンタル移籍)や岩波拓也(浦和)といった年代別代表選手も輩出。地元の期待も大いに高まった。

 しかしながら、安達元社長や黒田氏がクラブを離れた2012年以降は地域との結びつきがやや弱まったと言われることが多い。トップの監督を頻繁に交代させ、外国人選手を次々と補強するクラブの方向性に不安を感じた選手が外へ出る動きも見られるようになった。ここ1年で生え抜きの小川と岩波が出て行ったのは、地元サッカー関係者にとっても大きな衝撃だった。こうした現状を少しでも改善すべく、イニエスタ効果を地元のサッカー少年や関係者に還元するような動きが出てくれば理想的だろう。

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今後は課題も…