歩いていて「疲れた」と感じたら、うつむいて立ち尽くすしかない。建物にたどり着けるだけの体力が回復するのを待ち、そろそろと歩き出す。
昼間には時々、知り合いが訪ねてくる。会えば会話が弾み、「元気そうでよかった」と相手はたいがい安心して帰っていく。その後、疲れがどっと出る。言葉数やうなずきを減らして体力を温存することができないためだ。
これだけ疲れているのだ。目覚めれば朝だろう――と思って夜、ベッドに横になる。
ところが午前1、2時には目が開き、眠いのに眠れないままものを書いたり、本を読んだりして過ごすことになる。翌朝、配偶者の物音で目覚めた時にはもう疲れている。それが核となり、雪だるまのように疲労感がふくれあがって、根雪となる。体は重くなるばかりだ。
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最近、2年ぶりに髪の毛がごっそり抜け落ちた。
前回は強い抗がん剤の副作用だったが、今回は原因がはっきりしない。
昨秋、その抗がん剤を使わなくなると、ほどなく髪の毛は元通りに生えそろったのだが。
「また抜けてきたんですよ」
先日、病院の看護師に伝えると、驚かれた。いま使っている抗がん剤には、髪が抜ける副作用はない。やめた薬の影響が今ごろ出るとも考えにくい。「遺伝でしょうか」といわれ、「この年になって初めて?」とつい聞き返してしまった。
近所の床屋にも同じことを伝えた。彼は「これは遺伝の抜け方じゃないね」と断言した。
抜けはじめた位置も、髪の細り具合も違う。バリカンで最短の0.5ミリ程度まで刈り上げながら、丁寧に説明してくれた。
正直なところ、どちらが真相でも構わない。私のがんは使える抗がん剤が限られている。そこに生命力の衰えをうかがわせることが起きた。それが大事なのだ。
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この連載で体調について長めに書いたのは、5月に入院生活を振り返って以来になる。