そんな吉川家に決定的な亀裂ができたのは長女が高校生のときだった。連絡をしないまま飲みにいってしまった吉川さんに、妻は激怒した。無断で帰宅が遅れたからだけではない。じつは、過去に吉川さんは過去に不貞を働いていたのだ。一度は和解したものの、妻の心の底には澱のように不安がたまっていた。今回の騒動によって再び吹き出した不信が、妻に離婚を決意させた。

 妻は子どもを置いて出て行き、吉川さんは、住宅ローンを一人で背負うことになった。年収は550万円ほどになっていたが、それでも大きな負担だ。そこに子どもたちの教育費がのしかかる。長女の大学進学の際に貯金をすべて使い尽くしたうえに、教育ローンを200万円借り入れた吉川さんは、次女の進学のさいには、さらに300万円の教育ローンを借り入れた。

 まだ長男の進学が残っている。しかし、住宅ローンと教育ローンの債務よって、これ以上は国や銀行などからの借り入れはできない状態になっていた。残る道は消費者金融しかなかった。

 結局、吉川さんは膨れ上がった借金を払いきれずに自己破産をすることになった。マイホームを手放し、現在は小さな2Kアパートに移り住んで1人暮らしをしている。子どもたちも独立し、それぞれ奨学金を返済している。吉川さんの今の夢。それは、再び家を購入し、家族がまた一緒に暮らすことだという。

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 荻原氏によれば、日本の高等教育の問題点は、公的支出の少なさにあるという。経済協力開発機構(OECD)によれば、加盟国各国のGDPに占める小学校から大学までの教育機関への公的支出は日本が3.2%。その中でも、高等教育への公的支出割合は日本が最下位だった。OECD平均が70%なのに対し、日本は半分にも満たない34%だったのだ。「これほど、高等教育の費用負担を家庭任せにしている国は、先進国にはありません」と荻原氏は言う。

 しかし、現状を嘆いても、状況がすぐに変わることはない。現在の制度の中で、破産を免れながら、教育費をやりくりするにはどうすればいいか。もし、教育費を借金するのならば、借り入れる順番が大事だと荻原氏は言う。もっとも金利が有利なのは、日本政策金融公庫の「国の教育ローン」、民間の金融機関ならJAバンクや労働金庫を検討するのがよいそうだ。

 子育て世代にとって避けては通れない教育資金の問題。正しい知識を身につけて、老前破産に陥らぬよう自衛したい。