ホームランを放つ広島・菊池 (c)朝日新聞社
ホームランを放つ広島・菊池 (c)朝日新聞社

 球団創設56年目にして初のワールドチャンピオンに輝いたヒューストン・アストロズ。その中心として見事な活躍を見せたのがシーズンのMVPも受賞したホセ・アルトゥーベだ。170cmに満たない身長ながら過去4年間で3度の首位打者に輝き、また超人的なセカンドの守備力は世界一とも言われている。アルトゥーベの凄さは小柄でありながらも2年続けて24本塁打をマークしているように長打力も兼ね備えているところだ。そういう意味でこれまでの小兵選手の常識を覆していると言えるが、そのような波は日本球界にも押し寄せている。そこで今回は小柄ながら見事なパフォーマンスを見せている日本人選手を紹介したい。

 アルトゥーベとの比較という意味では最も近いタイプの選手が菊池涼介(広島・171cm)であることは間違いないだろう。“忍者”と称されるセカンドの守備は天下一品であり、歴代補殺数の上位3位までを菊池が占めていることからもその守備範囲の広さが驚異的であることがよく分かるだろう。守備だけでなくパンチ力のあるバッティングも共通点だ。2番という制約が多い打順で3年連続リーグトップの犠打数を記録していながらもレギュラーに定着してからの5シーズンで4度二桁ホームランを記録している。状況によってバッティングを変えることができ、長打がほしい場面では狙い球を絞ってフルスイングできるのも菊池の大きな魅力である。今シーズンはWBCの影響でコンディションが万全ではなかったが、それでも優勝への貢献度の高さはチーム屈指であったことは間違いない。

 今年最もブレイクした小兵選手では甲斐拓也(ソフトバンク・170cm)の名前が挙がる。高校時代は全国的には無名で、育成ドラフト6位での入団だったが着々と力をつけて3年目のオフに支配下登録。過去3年間は二軍暮らしが大半だったが、今年はプロ入り初のスタメンマスクから一気に正捕手の座をつかみベストナイン、ゴールデングラブ賞をダブル受賞する見事な活躍を見せた。ちなみに育成契約出身の選手がベストナインを受賞するのは史上初の快挙である。甲斐の持ち味はなんといってもその強肩。2.0秒を切れば強肩と言われるセカンド送球のタイムにおいてコンスタントに1.7秒台前半をマークしており、間違いなく12球団でもトップのスローイング能力を持っている。バッティングも課題は少なくないが、バットを短く持ちながらも強く振り切ることができており、意外なパンチ力を持ち合わせている。長年正捕手不在に苦しんでいたソフトバンクにとっては、まさに救世主と呼べる存在と言えるだろう。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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