関東での寺社めぐりといえば、一番人気は鎌倉だろう。湘南の足ともいえるエノデン(江ノ島電鉄線)は週末・休日ともなると、駅への入場規制がかかるほどの人気ぶり。平日でさえ迂回(うかい)路の少ない道は各方面で渋滞を引き起こしている。もともと人気のある観光スポットではあるが、ここ数年で激増するドラマやアニメの聖地巡礼者たちによって混雑ぶりはますますひどくなってきたようだ。
●鎌倉の歴史をおさらいしてみる
ところで、鎌倉とはいったいどんなところなのだろう。観光客に特に人気のあじさいの季節を迎える前に、神社・仏閣からみた鎌倉の見所を今回は整理してみたいと思う。
鎌倉といえば、まず誰でも思い浮かべるのは鎌倉の大仏さまではないだろうか。鎌倉大仏は、高徳院(正式名称は「大異山 高徳院 清浄泉寺」)の本尊で、屋外に置かれた大仏ながら国宝の彫刻物である。実はこの有名な大仏、誰がいつ完成させたものかわかっていない。
鎌倉大仏だけでなく、鎌倉時代の歴史もかなり曖昧な部分を多く残している。今でも、鎌倉時代の始まりの年について1192年説、1185年説、はたまた1183年説と、歴史家の間で定まっていないのがよい例だ。ほかにも初代将軍の頼朝はどのように死んだのかなど、武家政治の確立や仏教美術の隆盛、元寇という世界的に有名な史実などを抱えた時代でありながら、確証のない事柄も多く、源頼朝の肖像画さえ「伝」という文字を冠するようになった。
●鎌倉時代は文化の切り替え点
こうした背景が関係したかどうかは定かでないが、鎌倉は世界遺産登録に過去一度失敗している。今も、登録に向けてさまざまな活動が行われているようだが、全国各地に残った鎌倉文化の力強さの方に、私はむしろ感嘆を覚える。盛り上がる筋肉を仏像に与え、力強さを表現したのは鎌倉時代以降であるし、穏やかな仏の顔に玉眼(ぎょくがん)を入れることが一般的になったのもこの時代からである。にもかかわらず、この地に残る鎌倉時代の国宝仏像は上記の鎌倉大仏一点のみで、ほとんどは奈良県のお寺に収蔵されているという不思議さも興味深い。