S子目当ての客が付き、店の売り上げが上がった。ママはS子を重宝し、
「結婚してることは言わんほうがいいかもなあ。まあ、あんた次第やけど。S子、どう思う?」
と“注意”した。
京都は、意見を求められているようで実は命令されている、ということを知らなくては生きていけない、厄介な土地だ。だから、当初、
「家では旦那が子どもを見てる」
と説明していたS子は、
「子どもはいるけど、仕事中はお母さんに預けてる。結婚はしてへん」
と、嘘をついた。
すると、とたんに男たちがS子を口説き始めた。中には毎日通っては、
「結婚してくれ」
と、指輪を渡そうとする学生もいたという。
S子は、スナックに行くことが楽しみになった。長年、子どもと夫だけの世界にいたS子にとって、男に請われることは新鮮で気持ちがよかったからだ。
「家ではもうすっかり母親だったから、びっくりした。『うち、まだまだイケるやん』って(笑い)。何より久しぶりに女として扱われることが嬉しかった」
もうママの“注意”のためではなかった。S子は気に入った相手なら、同伴やアフターを受けるようになった。
その中の一人に、30代の男性、Hさんがいた。
Hさんも、S子と同じく子どもがいたが、妻とは、
「別居している」
と説明したそうだ。それも本当かどうかはわからない。それでもS子はこのHさんを好きになった。
ある日、アフターでHさんと居酒屋に行った後、ホテルに誘われた。