大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
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※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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 医師が病気になったり、体調を崩したりするのはおかしいと考える人がいます。しかし、医師も人間であり、しかも激務であればより体調を崩しやすいともいえます。『心にしみる皮膚の話』の著者で、京都大学医学部特定准教授の大塚篤司医師が医師の健康管理について語ります。

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 私たち医者が風邪をひくと周りからは「医者の不養生」とからかわれます。医者は病気をしないように思われがちですが、どちらかというと不健康で風邪にもよくかかります。私も新型コロナウイルス感染症が流行する前は頻繁に風邪をひいていました。

 私が研修医の頃は、熱を出したとしても仕事を休むなんてとんでもないことだと思われていました。ですので、熱が出たときはロキソニンを内服して熱を下げた状態で勤務する医師が多かったように思います。寝不足も風邪も武勇伝のように語られていました。

 マスク、手洗い、うがいをし、3密を避けるようになって、今年はいっさい風邪をひかなくなりました。基本的なことで多くの感染症は防げるのだなぁと感じています。

 コロナ禍で学会や研究会、そして会議がほぼオンラインに切り替わり、毎週末続いていた出張もなくなりました。時間に余裕ができて体も楽になったのですが、どうも心は別問題のようです。私は医師ですのでコロナの感染リスクが高い飲み会には参加できないですし、病院によっては外食が禁止されているところもあります。家と病院の往復だけになってから、意味もなく落ち込んでしまう日がありました。息抜きや休憩は医師として働き続ける上でも大事なことだと気づかされました。

 医師の労働は過酷で、コロナが流行する少し前は働き方改革が話題となっていました。私も過労と人間関係からバーンアウトしてしまった経験があります。

 それは私が大学院の学生として、患者さんを診ながら免疫の基礎研究に打ち込んでいた頃です。もともと自分を追い込んで仕事をするのが習慣だった私は、終わりのない仕事と極端に少ない睡眠時間で、ある日とつぜん体が動かなくなってしまいました。仕事が大好きだった自分が「職場に行けない」と気がついたときはとてもショックを受けました。それからの体調は悪くなる一方で、気分転換に寄った本屋で医療関係の本が目に入ったときは、立っていられなくなるほどの苦しさを感じました。

 ストイックに自分を追い込んで、医者そして研究者としての仕事を続けてきた結果、頑張ろうとしても頑張れずに苦しい体になってしまいました。

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