1995年、俳優の東幹久と高岡早紀が共演した「アパガード」という歯磨き粉のCMのキャッチコピー、「芸能人は歯が命」が人々に強烈な衝撃を与え、“白い歯へのあこがれ”を表すかの如く、大ヒット商品につながった。
実は鉄道の世界でも、「命」といえる色が存在する。それは「女性を美しく見せる色」といわれるブラック。デザイン上において重要なアイテムと化しており、多くの車両に用いられている。そう、「鉄道車両はブラックが命」なのだ。
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■鉄道業界に衝撃を与えたブラックマスク
鉄道車両の顔といえる前面デザインをじっくり眺めてみよう。その多くはフロントガラスの周囲を黒で囲うブラックマスクにお気付きだろうか。
ブラックマスクは1979年に国鉄が威信をかけて世に送り出した、新型通勤形電車201系で初採用された。2枚のフロントガラス、前照灯(前部標識灯)、方向幕、運行番号表示器をブラックで囲い、一体感を演出した。当時の国鉄通勤形電車は、ラインカラー単色塗りを基本としており、わかりやすい半面、デザインが単調に映る難点もあった。
201系が登場する以前から、大阪市営地下鉄(現・Osaka Metro)60系などで、フロントガラスの上にブラックパネルを設け、灯具、方向幕、運行番号表示器などを配しており、引き締まった表情に見せた。201系はこれを“昇華”するかたちとなり、デザイン上の大きなアクセントとなった。
ブラックマスクは徐々に浸透し、現在でもほとんどの新型車両に用いられている。
■側窓のピラーをブラックにしてスッキリしたデザインに
営団地下鉄(現・東京メトロ)銀座線用の新型車両として、1983年に01系が登場した。デザイン面で“黒光り”したのは、車体側面の側窓である。半蔵門線用の8000系と同じ一段下降式ながら、窓と窓の間のピラー(柱)を黒色アルマイト仕上げにすることで、大型一連窓に見せる工夫をした(車端部を除く)。