国鉄では1985年12月に北海道のリゾート気動車(ジョイフルトレイン)第1弾、キハ59・29形の「アルファ・コンチネンタル・エクスプレス」を皮切りに、翌1986年6月、キハ35系改造の一般形キハ38形、特急形のキハ185系、キハ183系500番代と続いた。私鉄も含め、特急形車両を中心に採り入れられており、引き締まったデザインに仕上げている。

■吊り手のベルトをオールブラックにした東武鉄道

 近年も鉄道車両のある部分にブラックを採り入れている。JR東日本では、E233系から吊り手を二等辺三角形にして、一般席の吊り手をブラックにした。ベルトも高級感を醸し出す凝ったデザインだ(注、山手線用E235系の一般席用吊り手のカラーは、ラインカラーのウグイス色にそろえた)。

 東武鉄道では、70000系を皮切りに、吊り手ベルトのブラック化を進めている。汚れを目立たなくする効果があり、清潔感のある車内を醸し出す。

 優先席の吊り手ベルトも対象に入っており、吊り手のオレンジとベルトのブラックという組み合わせは、「プロ野球巨人軍を連想させる」と思う野球ファンも少なからずいるだろう。

■車両の妻面もブラック一色に

 2020年3月14日にデビューした話題の特急形電車、近畿日本鉄道80000系「ひのとり」は、ひのとりレッドをベースに、ゴールドやブラックをアクセントカラーに用いている。

 特筆すべきは車体の妻面(車両連結面)の塗装をブラック1色にしていること。近鉄に聞いたところ、車体側面のひのとりレッドを際立たせる狙いがあるという。

 鉄道車両の“大敵”は汚れ。車体は妻面が汚れやすく、特に白いボディーや無塗装の車両だと目立ってしまう。ブラックは汚れを目立たなくさせる効果がある。実際、駅を通過したシーンを見る限り、流麗なひのとりレッドの美しさを際立たせているように思う。

 鉄道車両に用いられるブラックは、主役、脇役、裏方のすべてをこなせる“万能色”といえよう。(文・岸田法眼)

岸田法眼(きしだ・ほうがん)/『Yahoo! セカンドライフ』(ヤフー刊)の選抜サポーターに抜擢され、2007年にライターデビュー。以降、フリーのレイルウェイ・ライターとして、『鉄道まるわかり』シリーズ(天夢人刊)、『論座』(朝日新聞社刊)、『bizSPA! フレッシュ』(扶桑社刊)などに執筆。著書に『波瀾万丈の車両』(アルファベータブックス刊)がある。また、好角家でもある。引き続き旅や鉄道などを中心に著作を続ける。

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