1985年の巨人-中日7回戦で力投する江川
1985年の巨人-中日7回戦で力投する江川

 完投の役目をまっとうしつつ、最後の打球を投手が捕球して日本一を決めるというこの結末。事前に想定したライナーではなかったが、まんまと江川の思惑が最高の舞台で実現した瞬間だった。

「それがすごいとか、偉いという感覚でもありません。オールスターでの連続三振にしてもそう。誰も考えていないことを考えていくというのが好きなんですね、結局。江川さんって変ですねとよく言われるんですが、人と同じことを考えても面白くないというか、そういう行為に興味が湧かない。誰もやっていないことは何かないか。そういう発想にどうしてもなるんです、僕という人間は」

 極めて稀有な存在として走り抜けた九年間の現役生活。それ以上、プレーし続けることができなかったから引退したと、別れ際にすがすがしく語った。論理的な思考や、研ぎ澄まされた技術などを、存分に感じさせた伝説の投手との対話。そしてなにより、常人とは異なるその旺盛な好奇心が、この速球投手の魅力を増幅させていたのだとあらためて思い知る。

※単行本『一球の記憶』は、村田兆治、山田久志、石毛宏典、高橋慶彦(敬称略)など合計37名のインタビューを加えて2月下旬に朝日新聞出版から発売予定です。定価2178円(税込み)

週刊朝日  2023年2月10日号

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