「この何日か前に、歴代の日本シリーズがどのような形で終了しているかを調べてみたんです。三振で終わるのもいいですが、最後の球は捕手が捕って試合終了になりますし、それは過去に何度もあった場面。誰もやったことのない形で日本一を決めたいと考えていたんです。調べた結果、投手が最後に球を捕って日本一を達成し、しかもこれまでなかった場面というのはピッチャーライナーだったんですね。だから登板前日の夜、眠る前に野球の神様にお願いしました。明日はピッチャーライナーで終わりたいと」

■野球の神様は願いを受け入れたか?

 この年、レギュラーシーズンでは最多勝利、最優秀防御率、最多奪三振など投手四冠王に。巨人は八年ぶりの日本一が懸かった日本シリーズでも江川を軸に試合を組み立て、三勝二敗と王手をかけた第六戦でもこの絶対的エースに先発を託していた。そして6対3と巨人の3点リードで迎えた九回裏、ツーアウトで打席には五十嵐信一。ストレートを続けざまに投げ込んで2ナッシングと追い込んだ後の四球目。一球遊ぶこともせず、内角やや高めへストレートが投じられた。一見するとセ・リーグ奪三振王が最後に三振を狙った球のようにも思えたが、本人の意図は異なるところにあったようだ。そして五十嵐の打球は高々としたフライに。江川は、捕球しようと一塁からマウンド方向へ向かってきた中畑清を制し、このピッチャーフライをキャッチ。その瞬間、日本一が決まるのである。

「野球の神様からこのピッチャーフライをいただいた。でもライナーでお願いしたのにフライでしたのでちょっと違うんですよ。ひょっとすると神様は野球にあまり詳しくなかったのかもしれません。神様としてはちょっとひねって、フライが上がる時間を僕に楽しませてくれましたね。でもそのフライを捕球しようとした時、白いボールが真っ黒な背景に浮いているように見えたんです。真っ暗な背景にボールの赤い縫い目が見えて、回転せずにわーっと落ちてきた。ですけどあれ、デーゲームだから空は青いはずなんですよ」

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