モチベーションの源について、なかなか答えが見つからないようではあったが、ふと、江川はかすかな笑みを浮かべながら、言葉を紡ぎ始めた。その様子はまるで試合が楽しくて仕方ないといった野球少年のようにも見えた。
「ホームランバッターが出てくるとなぜ楽しいかと言えば球場が沸くからですね。満杯の球場で歓声が一つひとつ聞こえるわけではないんですが、マウンドにいるとやっぱり声が聞こえますから。相手チームの三番、四番が出てくるとその声援がどんどん、大きくなる。それを感じながら投げるのが楽しいと思っていましたね、ええ。マウンドに登る時は冷静ではいられません。あそこはおっかない場所ですから。テレビ、ラジオがあって皆さんが注目している。そんな時、普通の神経では投げられないはずなんですが、あの場所では興奮状態でもまたダメなんです。ですからそういう瞬間はとても面白いというか、通常では味わえないものだと引退してあらためて感じます。もちろんファンの方に楽しんでいただいてるということも重要なんですが、そうですね、自分にとって緊張が走るということが楽しかったんでしょう。歓声が湧いて、球場全体がその場面に集中すると、今度はシーンと静まり返る。そこには何万人もいるはずなのに、音がしなくなるんですよ。ホームランバッターが打席に入る前はわーっと歓声が聞こえるんですが、対決の瞬間を見たいとなると誰も喋らなくなるんですよね。この感覚はマウンドにいなければ経験できません。やっぱりその瞬間が最高に面白い。三振を取るか、バッターが打つかという球場全体の興味ですか。自分としては、刀をかざし合って勝負しているといった感覚、それが好きだったというのが正確な表現でしょうか」
■9連続三振の上をいく18連続三振という「夢」
江川という投手を語る時、決まって登場するのが八四年のオールスターゲームだ。江夏豊の9連続三振にあと一歩で届かなかった8連続三振のシーンである。