選手としてキャリアを重ねていくなら、頭の中も深化させる必要があります。実績がある選手は、いいときの感覚を追い求めることが多い。そうではなくて、新しいものを求めていく頭に切り替えなければだめだ、と選手たちに言っています。よかったときの感覚の再現に苦心するより、過去とは違ったかたちで向上を求めるほうがポジティブになれると思うからです。
昔に戻そうと思うと、「まだできない」とネガティブな感情が生まれがちです。それより新しいことに挑戦したほうが前向きになれます。長く活躍している社会人選手の多くは、気持ちも泳ぎもアップデートを繰り返している気がします。
合宿に参加している選手は、トレーニングの内容を理解して改善点を意識しながら取り組んでいます。みんながそういう雰囲気になると、お互いに刺激を受けて向上心が生まれてくる。これはチームで練習するいいところだと思います。
パワーを上げる強度の高い筋力トレーニングは大会の2週間前くらいから減らしていきます。ただ、前回書いた肩甲骨の動きを改善するエクササイズなど水泳の動作につながる陸上トレーニングは試合中も続けていきます。これまでじっくり取り組んできた練習を生かして、日本選手権のレースに向けてしっかり調整していきます。
(構成/本誌・堀井正明)
平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数
※週刊朝日 2021年3月12日号