指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第59回は、「気持ちと泳ぎとアップデート」について。
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東京五輪代表選考会を兼ねた日本選手権(4月3~10日、東京アクアティクスセンター)まで約1カ月になりました。長野県東御市の準高地の合宿で、いい練習が続けられています。
12月から1月の年末年始の合宿では、陸上トレーニングに力を入れて筋力をつけ、大きな泳ぎを探っていくことに焦点を当てました。2月からの合宿はそのベースの上に泳ぎの精度を上げて、本番のレースに結びつけていきます。
スタートの改善も今回のテーマです。合宿序盤にレース分析が専門のマグナス・シェルベルグ氏(日本水泳連盟競泳委員)にスタートの映像を撮ってもらい、モニターに映しながら選手それぞれ修正すべき点や長所の指摘を受けました。
競泳のクラウチングスタートではスタート台のブロックを後ろ脚でけり、スタート台に指をかけた前脚と連動させて飛び出します。2019年世界選手権女子100メートル平泳ぎ4位の青木玲緒樹(れおな)は、飛び出すときスタート台を手でぐっと引っ張ってしまう。スローで見ると、そのとき前のひざが下がっている。「ここは前脚をふんばって上体が落ちていかないほうがいい」と助言をもらいました。
ほかの選手の映像と比較することで、スタートのときに力を効率良く使うポイントが見えてきます。ウェートトレーニングではバーベルを使って下肢と腹筋、背筋を連動させて体をすばやく伸ばすクリーンと呼ぶ練習があります。このときの筋肉や骨盤の動きが、スタート動作と結びついていることが実感できると、ウェートトレーニングの目的がより明確になります。
このトレーニングは何のためにやっているのか、しっかり理解して取り組むことが大切です。陸上トレーニングを、いい泳ぎに結びつけて、コーチは変化を見逃さず正しく評価する。そうすると、どんどん深いトレーニングができて、いい循環が生まれます。