また、CDに握手券や総選挙投票権のような特典をつける販促戦略が、AKB商法として批判もされた。

 そんななか、一昨年の「NHK紅白歌合戦」では嵐が「カイト」を初公開。東京五輪に向けたNHK2020ソングとして、米津が書き下ろしたものだ。つまり、新旧勢力のトップ同士がコラボしたわけで、これが昨年の目玉的な作品になるはずだった。

 しかし、五輪はコロナ禍によって延期。それもあって「カイト」はミリオンヒットのわりに今ひとつ浮揚しなかった。さらに、コロナ禍はAKBのようなファンとの直接的コミュニケーションが持ち味の「会いに行けるアイドル」にも打撃を与えることになる。

 その一方で、音楽をスマホの動画などで楽しむ傾向は加速。つまり、新旧コラボがやや不発に終わったり、旧勢力が勢いを失うなか、新勢力が一気に躍進する状況が生まれたわけだ。

 そして、昨年の「紅白」。AKBは落選し、嵐は活動休止前の無観客ライブを行うため、NHKホールには姿を見せなかった。そのかわり、新鮮な印象をもたらしたのが前出のYOASOBIや「香水」の瑛人といった、令和スタイルで売れた面々である。すなわち、CDセールスより、配信セールスや動画のバズり具合のほうがヒットの指標だという現実がより明確になってきたのだ。

 その流れは今年に入ってからも持ち越され、前出の「うっせぇわ」や「ドライフラワー」(優里)のような、令和スタイルのヒットが次々と生まれている。その結果、音楽シーンは活性化した。アイドルやアニメ頼みだった時代は、その華やかさとは裏腹にヒット曲が欠乏しているかのようなさびしさも感じたものだが、最近はミョーににぎやかだ。

 こうした状況は、かつてグループサウンズが席巻した時期やニューミュージックが台頭した時期を思わせる。前者はレコード会社における作詞家や作曲家の専属制度を崩壊させたし、後者はフォークやロックがJポップになるための橋渡し的な役割を果たした。最近の状況は、GSとニューミュージックのブームがふたつまとめて来たくらいの衝撃かもしれない。

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「好きなアーティストは顔出しをしていない」