西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「漢詩に親しむ」。
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【李白】ポイント
(1)李白の詩の1行に魅かれ、漢詩に親しむようになった
(2)漢詩のおかげで中国に出かける楽しみも深まった
(3)人生の後半に味わい深くなるものを探してみよう
私は詩心がないわけではありませんが、どちらかというと“散文”的な人間だと思っています。高校時代に漢文の授業があり、担当の先生の人柄は好きでしたが、漢詩に親しむことは、まったくありませんでした。
ところがあるとき、唐代に「詩仙」と称された李白の詩の1行に魅(ひ)かれて、それ以来、漢詩に親しむようになりました。そういうことがあるから、人生は面白いですね。
西洋医学一辺倒の医学に限界を感じて、中国医学も採り入れた病院を埼玉県川越市につくったのが1982年、46歳のときです。
中国医学を一日も早く身につけるために、北京市がんセンターで知り合った李岩先生に日本に来てもらい、病院のスタッフが特訓を受けました。
その頃です。李白の詩に出会ったのは。病院では李岩先生の通訳が中国語の教室も開いていて、その先生が「黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之(ゆ)くを送る」という李白の有名な詩を紹介したのです。
その2行目の「烟花三月下揚州」に感じるところがありました。「春、花がすみの三月に、揚州へ舟で下ってゆく」(『漢詩の解釈と鑑賞事典』旺文社)という意味です。中国語で読むと「イェン・ホア・サン・ユェ・シャア・ヤン・ゾウ」となります。なんともいえない詩情があふれているうえに、この発音がとても心地よいのです。リズムもいいですね。中国医学に対する期待が高まっていたせいかもしれませんが、このフレーズが私の心に響いて、目の前に漢詩の世界が開けました。