ちなみにこの詩の全文はこうなります。「わが親友、孟浩然君は、この西の黄鶴楼に別れを告げて、春、花がすみの三月に、揚州へ舟で下ってゆく。楼上からながめると、たった一つの帆かけ舟のかすかな姿が、青い空に吸い込まれて消え、あとにはただ長江の流れが天の果てへと流れてゆくばかりである」(同書)
揚州に赴く親友を見送る李白の、別れの悲しさと寂しさが伝わってきます。
漢詩に親しみ、中国に出かける楽しみも深まりました。実際に詩で詠まれた場所を訪れることができるからです。蘇州の寒山寺もよかったですね。私は張継の「楓橋夜泊」が大好きなんです。
「月落ち烏啼いて霜天に満つ 江楓漁火愁眠に対す 姑蘇城外の寒山寺 夜半の鐘声客船に到る」
好きなフレーズを思い起こすのもいいですね。
山中にて幽人と対酌す(李白)「両人対酌して山花開く 一杯一杯復(また)一杯」
飲中八仙歌(杜甫)「李白は一斗詩百篇」
曲江(杜甫)「酒債は尋常行く処に有り 人生七十古来稀(まれ)なり」
人生の後半に味わい深くなるものがあるものです。それを見つけると、ナイス・エイジングの世界が広がります。皆さんも探してみてください。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2021年4月30日号