こう振り返ってみると、もう少し、なんとかしてあげられなかったのかとの思いも無きにしもあらずですが、彼女の84年間の生涯を見ると、これも自然の流れのような気がします。彼女らしいかたちで虚空に旅立っていった気がするのです。だから悲しくはありません。
私が身近な人の死を悲しいと思わないのは、来世の存在を信じているからです。これまでにも何度か書きましたが、どんな人も亡くなった後、とてもいい顔になります。それは現世を生きることをやりとげて、ホッとした顔だと思うのです。そして虚空へ旅立っていく希望に満ちた顔です。彼女もまた、とてもいい顔をしていました。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2021年9月17日号