教師は教壇に立ち続けていたが、報告書を受け本市教育委員会は、外部の有識者でつくる体罰等審議会を開き、男性教師の不適切な指導などを審議した。その結果、同11月になって新たに2件の不適切な行為があったと認定。そして翌12月、別の小学校に勤めていた吉野浩一教諭(60)が懲戒免職となり、当時の小学校の校長、教頭らが懲戒処分となった。

 子どもが命を絶って3年9カ月。母親は言う。

「被害の重大さや、被害を受けた子どもの人数を考えると当然の結果だと思います。けれど、ここまで長かったです。学校の教師や部活動の顧問の言動が子どもに与える影響は本当に大きいと思います。二度と教師の指導で亡くなる子どもが出ないようにしてほしいです」

 教師の指導で生徒が自殺する。遺族たちはそれを「指導死」と呼ぶ。公の統計はないが、指導死の問題に長年携わってきた教育評論家の武田さち子さんが報道などから指導死と見られる事例を調べたところ、未遂を含め平成に入った1989年から2022年3月までの33年間で、107件に上った。1年に3人以上、教師の指導で子どもが亡くなっていることになる。

「指導死の9割近くが有形暴力のない、つまり、叱責や暴言など暴力を伴わない指導で亡くなっています。指導がきっかけで自殺をした生徒の事例を調べていくと、まじめで責任感や正義感が強い子が多い気がします。理不尽な指導を受けても対抗する手段がない中、発作的に死を選ぶのです」(武田さん)

■背景に「ダークペダゴジー」 結果の妥当性だけを重要視

 教育社会学者で大東文化大学の山本宏樹准教授は、指導死が起きる背景に「ダークペダゴジー(闇の教授法)」があると言う。スイスの精神科医、故アリス・ミラーが20世紀に主唱した概念だ。

「本来、教育を進めるにあたって『結果の妥当性』とそれに至る『手続きの妥当性』の両方を大事にしなければいけません。しかし、ダークペダゴジーは結果の妥当性だけを重要視します。体罰や行き過ぎた指導があっても、成績がよくなるなど結果が伴っていれば手続きを正当化できると考えるのです」

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