22年12月、国が児童生徒に対する指導の在り方を示した教員用の手引書「生徒指導提要」が、12年ぶりに改訂された。その目次には「不適切な指導」という項目が初めて加わり、本文に「不適切な指導と考えられ得る例」として「大声で怒鳴る、ものを叩(たた)く」などが箇条書きで記された。

「不適切な指導」を加えるよう文部科学省に要望してきたのは、指導死で家族を失った遺族たちだ。21年12月、「安全な生徒指導を考える会」をつくり、同省に要望を繰り返してきた。

 会を呼びかけたのは、弟の悠太さんを亡くした姉(28)だ。弟は13年3月、札幌市の道立高校1年の時、吹奏楽部の活動に打ち込んでいた。だが、部員同士のトラブルを機に顧問の教諭から厳しく叱責され、翌日に市内の地下鉄のホームから飛び降りて自殺した。姉は言う。

「16歳だった弟が、大好きだった吹奏楽部で孤立して居場所を失い、絶望の中で死んでいった。それって、すごく悲しいし、つらいです」

 会では22年9月、国に不適切指導に関するワーキングチームの立ち上げや、提要の周知・現場への浸透などを要望。今後も要望した問題に国がどう対応していくか注視していくという。

 姉は、子どもたちの未来を守ってほしい、不適切な指導は子どもたちの未来を奪うものだと話した。

「指導死は教師が不適切な指導さえしなくなれば防げる自殺です。命をなくさなくても、不適切な指導によって不登校になったりする子どもはたくさんいます。そうした子どもたちには、もっと違う未来があったはず。子どもたちの未来を教師が奪ってはいけない」

(編集部・野村昌二)

AERA 2023年1月30日号

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
Amazon スマイルSALEは9月4日まで。よりお得にするためのポイントやおすすめ目玉商品を紹介♪