具体的には「暴力」「強制」「嘘やごまかし」などを用いた不適切な指導が該当する。例えば暴力や暴言は、学習心理学でいう「恐怖条件付け」となり、結果として子どもの問題行動は減るが、精神的に萎縮させるため自発的で活発な学習活動を抑制し、抑うつやパニック状態となり自殺に至ることもある。

 山本准教授によると、ダークペダゴジーを生み出す背景には「自分も体罰で成長した」という教師の教育信念などがあるが、主要因は多忙な教師の働き方にあるという。日本の教師は「世界一多忙」と言われる労働環境に置かれて疲弊し、たまったストレスは攻撃性や不寛容を生み、ダークペダゴジーに頼る危険性が高まる。

「ダークペダゴジーに対抗するには、他の教師や保護者に相談するなどの手段があります。しかし、小中学生にとって教師は強大な存在で、誰かに相談したりするソーシャルスキルは育っていません。それ故に、小中学生はダークペダゴジーの被害者になりやすい傾向があります」(山本准教授)

 しかしなぜ、一般社会では許されない言動が、学校では許されるのか──。

 中学3年の三男を指導死で亡くした、鹿児島市の母親(40代)は、この疑問をずっと胸に抱いている。

「息子がされたのは、決して指導などではありません。言葉による暴力です」

 18年9月3日、2学期の始業式後、三男は夏休みの宿題の一部を忘れたことで担任の女性教師(40代)から、約10分の個別指導を受けた後、帰宅して自宅で自殺した。

 21年6月に遺族に提出された報告書は、10分の個別指導で「普通の生徒であれば萎縮するほどの大声で叱責があった」とし、三男が普段のように考えられなくなる心理的視野狭窄(きょうさく)に陥り、自殺に及んだと結論づけた。

 母親によると、三男は優しく友だち思いで、責任感や正義感が強かったという。母親は校長や担任教師に謝罪を求めてきたが、担任教師が謝罪に訪れたのは報告書が出てから約4カ月後。教師は謝罪に訪れることが遅かったこと、担任としての対応ができなかったことは口にしたが、母親は謝ってもらったという感覚はないと話す。

「息子が死んだのは申し訳なかったけれど、自分の指導が原因ではない、自分の指導は間違っていなかったと言っているようなものでした」

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