撮影:蔵真墨
撮影:蔵真墨

 蔵さんは、狭い場所に密集して暮らす香港の人々には学ぶことが多いという。

「さまざまな人が共存しながら上手に生きている。それが大きな豊かさや活気を生み出してきた」

 見た目では分からないが、「もともとここに住んでいる人、中国から渡ってきた人が祖先の人、新しく中国本土からやってきた人」。さらに、イギリス系やインド系、イスラム系の人たちも暮している。

■公園で目にした「すごくいい風景」

 ただ、最近の社会情勢の変化を受けて、香港を去る人も少なくない。

 イギリスやカナダ、オーストラリアなどは香港からの移住者を積極的に受け入れている。なかでもイギリスは市民権取得につながる特別ビザの受け付けを今年1月から開始した。

「でも、日本って、移住先としてあまり出てこない。外国人が働きにくい環境が少なくとも一部にはある。もっと、日本も移民や難民を受け入れられるようになってほしい。そういうこともずっと考えていた」

 香港では大勢のフィリピン人女性たちが働いている。

「フィリピーナのメイドたちはよく働いて、お金をためて、送金している。そんな彼女たちの姿になぜか親しみを覚えるんです」と、蔵さんは言う。

 12年にこの街の公園を訪れると、休日を楽しむフィリピン人女性たちの姿をよく目にした。

「自分でお弁当をつくって、友だちといっしょに公園にピクニックに行く。それが、すごくいい風景だな、と思った」

 ところが、19年に訪れた際には、「公園の半分くらいが囲われて入れないようになっていた。フィリピーナがくつろげるような場所がなくなっていた」。

 その一つが、冒頭に書いたビクトリア公園。

「ここはデモの出発地で、広場に集合して大通りをずっと歩いていく。だから、もう集まれないようにした感じですかね。それで、休みの日にフィリピーナがどこに行くかというと、駅前の広場とか、階段に座ったりしている。それが寂しい。つまり、そういう目線で撮影していた」

撮影:蔵真墨
撮影:蔵真墨

■香港を撮るとともに日本を思う

 街のあちらこちらで塗りつぶされたスローガンも目にした。

「自分たちの考えや訴えを書くけれど、すぐに消される。そういうのを『消すチーム』がいて、急いでいるときは、例えば、柱全体をラッピングして見えなくしてしまう」

 しかし、短時間にせよ、訴えていることが見え、さらにそれを消す人の存在を目にすることができるのは、ある意味、貴重ではないか、とも言う。

「日本だと、まず、訴えない。何かあっても我慢する。だから、消す必要も生じない。香港で起こったことは大変なことですが、周囲の空気を読んで何も起こらないよりは健全ではないか、と思いました。つまり、香港のことを考えるとともに、いま自分が住んでいる日本のことも考えながら撮っていたんです」

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】蔵真墨写真展「香港 ひざし まなざし」
コミュニケーションギャラリー ふげん社 10月7日~10月31

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