このとき、「もう1回、撮影に来たいな、と思った」。
「でも、なかなかまとまった時間をとれなくて。結局、行けたのが、このタイミングだった」
「もしかしたら最後になるかもしれないじゃないですか。外国人の写真家が自由に撮影できるのも」と、言った。
「なんか、寂しいですよ。買い物をして、おいしいものを食べて、楽しいところだったのに。コロナが終わったら、また、これまでと同様に行けるのかどうか、分からないですね」
昨年6月に施行された香港国家安全維持法(国安法)は最高刑を無期懲役と定め、中国の国家安全を脅かすと判断した行為に対して厳罰で臨む姿勢を明確にしている。
1997年に香港がイギリスから中国に返還された際、「一国二制度」を50年間保障するとしたが、それは国安法の制定によって事実上、崩れ去った。
「まだ、約束の50年はたっていないですから、しばらくは撮影に行けると思っていたのですが」
■珍しいものや強いイメージは撮らない
蔵さんは、新しい法律ができたいまも香港を自由に歩けるかもしれないという。
「でも、もしかしたら最後になるかもしれないタイミングで、きちんと撮れたんじゃないかな、と思います」
一方、激しいデモのような場面にレンズを向けるのは自分の役目ではないという。
「市民の日常を撮る。それが私の写真の基本です。だから、珍しいもの、強いイメージ、そういうものは撮らないようにしている。その市民生活のなかに変化が現れてくる」
撮影に出かける際は、目立ちやすい大柄な中判カメラを持って街を歩いた。
「あやしい撮影じゃない、ということが相手に分かるように、近くから堂々と撮る。でも、近すぎることはないです。なるべく、全身が写るように、周囲にいろいろなものが写り込むようにして、見る人がある程度自由に見られるようにしている」
そんな作品に写る香港の人々のまなざし。そこに感じる蔵さんのまなざし。