転機が訪れたのは30歳を過ぎたころ。「陰&陽(いん&やん)」(11年)という写真展を開催した。
「20代は『きれいです』『かわいいです』というお花の写真だったんです。でも、『陽』の部分ばかり見せてきたのは、まやかしなんじゃないか」と、思うようになった。
「作品のベースとなる『花の心』は変わらないんですけれど、自分の『陰』の感情、いやらしい人間の『毒の部分』も写真でさらけ出したい」
■風景は相手が大きすぎる
花が好きで、高校の写真部時代からずっと花を撮り続けてきた。「ほんとうに素直に、わき目も振らずに、ここまで来ちゃった」と言う。
周囲からは「もっといろいろなものを撮ったほうがためになる」と助言され、ほかの被写体を撮ってみたこともあった。しかし、花のようにはのめり込めなかった。
「スナップ、夜景、子どもの写真とか。撮っているときは『いい光だな』とか、思いながら夢中で撮るんです。でも、撮影が終わると、『なんか、撮っている』という感じがした。花は目の前にあるだけでずっと楽しい。やはり、ほかの被写体とは世界が違う」
ちなみに、被写体としての風景は、「大きすぎちゃって」と言う。
「風景を撮るのは好きなんです。でも、相手が大きすぎて、『心を寄せる』というところまではいけない。竹内先生は『海外の風景は大きすぎて、日本の風景のようには寄り添えない。日本の滝くらいがちょうどいい』って、言っていました。私には花くらいのサイズが寄り添える感じがする。それくらい小さい世界が私の表現には合っている」
これまで、事務所の先輩や後輩がさまざまな仕事をしながら独自の世界をつくり上げていく様子を間近で見てきた。その苦労が作品の強みになっているのではないか。そう、吉住さんは感じている。
「視野の広さや、人間としての深み。そういう要素が作品のエッセンスになっているのかもしれない。私はほんとにずーっと花できているので、その点ではちょっともろいかも。30になって、暗い部分も必要では、と思いましたけれど、年齢を重ねていけば自然と作品に深みが出てくるのか? これから40代、50代の写真をどう写していけばいいのか、悩みますね」
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】吉住志穂写真展「夢」
竹内敏信記念館・TAギャラリー 11月1日~11月22日