写真家・吉住志穂さんの作品展「夢」が11月1日から東京・目白の竹内敏信記念館・TAギャラリーで開催される。吉住さんに聞いた。
* * *
花はアマチュアに人気の被写体だが、意外なことに、吉住さんのように花を専門とする写真家は少ない。
「今回の花の写真展はテーマを『夢』としたので、かなり自由にイメージはできました」と、吉住さんは言う。
かわいらしいタイトルだと思っていたら、黒澤明の映画「夢」(1990年)ついて口にする。意外に骨太なのだ。
「黒バックにドーンと『こんな夢を見た』で始まる、あの映画。今回、展示を章立てて構成したのも映画のなかに短いストーリーがあったからかなあ」
「夢」は黒澤が見た夢を題材にした作品で、8話からなるオムニバス形式でつくられている。
一方、吉住さんの写真展は「輝きの夢」「桜の夢」「命の夢」「秋の夢」「心の夢」の5章からなる。
「最初は、単純に春夏秋冬で、『春の夢』『夏の夢』とかにしようと思ったんですけれど、ちょっと、ストレートすぎてつまらない。それで、早春、春、夏、秋、そして終章、という構成にしました」
■「春はサクラのお姫様」
第1章「輝の夢」は1年の始まり。
「冬から春。種から芽が出て、すべてが輝いて美しい。でも、春や夏の本番の輝きではない、小さいきらめきのような早春のイメージ」
作品に写るのは、漆黒の闇にポンと光が当たったような一輪のウメ。夜の光に照らされたようなスイセン。
段々畑を見下ろすように撮影したナノハナ畑が斜光線に照らされ、花だけに光が当たり、画面に入り混じる黒と黄の色合いが新鮮だ。
「ナノハナというと、青空バックの明るい写真が多いですけど、寒暖の間を行き来しているような感じの、この写真を組み入れました」
第2章「桜の夢」は、早春の余韻が残るころから春本番へ。
黄色いナノハナを背景に咲くサクラの花のクローズアップ。引きのサクラの写真にはひんやりと引き締まった空気を感じる。
「春はサクラのお姫様ということで、『木花咲耶姫(このはなのさくやひめ)』という、古事記や日本書紀に出てくる神様をイメージしています」
木花咲耶姫は富士山本宮浅間大社(富士宮市)の主祭神で、サクラの語源ともいわれる。