■何も言わないと「空撮だ」
続けて、「この場所も面白いでしょう」と、見せてくれたのは「OSA 13829」。
こちらは大阪とすぐに分かった。画面の縦横に大きなアーケードの屋根が写り、その間を埋めるように小さなビルがひしめいている。
「大阪って、古ーいアーケード商店街がとても生き生きとしていて楽しい。うらやましいよね」
「どこから撮影したんですか?」と、たずねると、「そういうことは、いちいち言わない。あまり細かく説明すると、つまらないから」。
しかし、こう続けた。
「でも、何も言わないと、勝手に『空撮だ』と言われる。大判のフィルムカメラで三脚を立てて写しているから、空撮なんて、ありえない(現在はデジタルカメラで撮影)。でも、『空撮』って、よく言われるよ。だから、それはもう諦めている」。
松江さんは都市だけでなく、さまざまな被写体を「真正面から、順光が当たっているところを撮っている」。
それは1985年に開いた初個展「TRANSIT(トランシット=測量機の一種)」以来、変わらないという。
「そのころは東京の街などをスナップ的に撮っていた。ある晴れた冬の日に、電柱を真正面から順光で撮った写真があったんだよ。陰影がなくなって、まるで電柱が後ろのコンクリートの壁に埋まっているように見えた。立体感がなくなって、平面に見えた。そのとき、まさに、写したものが写真になる瞬間を感じたんだよ。すべてはそこから始まった。それからは全部、真正面から、順光で、撮ろうと思った」
■「松江さん、今度は空撮ですか?」
写真展会場には東京の作品も展示される。
「これだけ背の低いビルが密集しているところは珍しいんだけど、どこか分かるかな?」
そう、松江さんにたずねられたものの、分からない。やはり、ランドマークが見当たらない。
答えは、「御徒町」。
「ここで特徴的なのは、このアーケード商店街なんだ」。小さなアーケードの屋根を指さす。
「佐竹商店街。東京でいちばん古いアーケード商店街らしい。なかなかないんだよね、こういうところ」
実はこの写真、「CC」シリーズではなく、「マキエタ」。つまり、模型だ。
それを明かされたときはかなり驚いた。てっきり、実際の東京の街を写したものと思い込んでいたのだ。