■気持ちが通じる模型
16年にポーランドで写した都市模型の写真も見せてもらうと、古めかしい街並み写っている。
「これって、戦前のワルシャワの風景じゃないですか?」
「そう、そこも大事なところだよ! こういう模型って、メッセージを持っている。これは1939年にドイツとソビエトに侵略される直前の姿。最盛期のワルシャワですよ。それを『形』として残す、そういう意図が含まれている」
大戦末期の44年秋、ワルシャワ市民が蜂起。ナチスドイツ軍は鎮圧の際、この街を徹底的に破壊した。
「だから、ポーランドでは街を模型で復元して残すのが盛んなんです。気持ちが通じるでしょう。それに、ユーモアがある。東京の模型と比べると、温かみがあって、いい感じ。模型の見本は現実の街で、それに合わせようと、それぞれの技法で作っている。それが面白いんだよ」
ちなみに、「マキエタのバリエーション」もある。それが冒頭に書いた写真展案内にある庭のような写真で、「都市」ではなく、「地形」の模型を写したもの。
「その一つの典型例。世界地図が湖の上に浮かんでいる。デンマークの、ある農家のおじさんが43年、湖を牧草地にするために干拓作業をしていたんだって。そのとき、偶然見つけた石の形が住んでいるユトランド半島に似ていた。それにインスピレーションを得て、世界地図を作ろうと決めて、25年かけてこれを作った。世界中を歩いて巡れる。ぼくと同じような態度ですよ」
■本物に即しているから面白い
見れば見るほど味わい深いつくりで、アフリカ大陸の国の位置に小さな国旗が立ち、サハラ砂漠やタンガニーカ湖、コンゴ川なども見える。要所がきちんと押さえられている感じがする。
「ちゃんとしている。正しいんだよ。分かる人にはよく分かる、って感じ。やっぱり、こういうものは本物に即していないと、面白くない。現実世界の写しだから、写真みたいなものなんだよ」
「確かにそうですね」と、相づちを打つと、「そうそう。そうでしょう」と、にこにこ顔。
「この写真もバッチリ順光。それに真正面ですよ。写真展会場にはさらにいろいろあるんですけれど……まあ、それは、見てからのお楽しみ」
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】松江泰治写真展「マキエタCC」
東京都写真美術館 11月9日~2022年1月23日