タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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先日、日本の映画業界の働き方に関する議論を聞く機会がありました。過酷な労働環境を変えたくても共通のルールがなく、働く人が連帯して声を上げる仕組みがないため、過酷さに耐えられる人しか生き残れないということでした。それを「情熱のカツアゲ」と言った登壇者も。こうしたいわゆるやりがい搾取は、いろいろな職場で起きています。
お子さんがアルバイトをしているというご家庭も多いでしょう。不当な働かされ方ではないか、ハラスメントを受けていないか、賃金はちゃんと支払われているかなど、子どもに尋ねていますか?
私の大学1年の長男もオーストラリアでアルバイトをしています。最初に契約書の中身を確認することや、毎月取り決め通りの支払いがされているかを確認することが大切だよと繰り返し伝えています。また、雇い主から無理なことを言われたり、同僚から嫌がらせをされたりしたら、すぐに教えてほしいとも伝えています。働く人には権利があり、守られるべき存在なのだよと。
我が家では息子たちが小学生の頃にお小遣い制をやめ、お金が必要な時は親に掛け合って家の中で仕事を探し、対価を交渉して自分で稼ぐようにしていました。夫が支払いを忘れた時は夫には「それは雇い主として、してはならないことだ」と言い、息子たちには「遠慮せずに請求するんだよ」と話しました。
働く人の権利を知らずに「仕事をくれた人に文句は言えない」と思うと、不当な働かされ方にも黙って耐え、嫌がらせを受けても泣き寝入りしてしまいます。働き始める前に、学校できちんと労働者の権利や相談の方法、身の守り方を教えるべきでしょう。日本の教育は勤勉で従順な労働者を育てることに長けていますが、子どもの幸せのためには権利教育こそが必要です。大人にも子どもにも不可欠な知識でしょう。
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
※AERA 2021年11月15日号