コロナ禍以降、夫は完全在宅勤務になり、以前よりは家事・育児ができる時間が増えたはずだが、保育園に持っていく荷物の準備を頼んだら忘れ物を連発し、名前のワッペンがはがれかけていても気がつかない。慌ただしい時間帯に、ひとり携帯でゲームをしていることもある。女性はこう声を落とす。
「夫に頼むと小言のようになってしまい、怒らせてしまうこともあるので、自分でやった方が早いと思いがち。1人目が大事だったなと思います。もしあの時、夫が育休を取れていたら意識が違ったかもしれません」
今年4月、改正育児・介護休業法が施行され、従業員に子どもが生まれることがわかったら、会社側は育休を取る意向があるかを確認する義務を負うことになった。さらに10月1日には、同法に男性向けの「産後パパ育休(出生時育児休業)」が加わり、男性は生後8週までの間なら最長4週の育休を2回まで分割取得できるようにもなった。また、従来は原則子どもが1歳になるまで取得できる育休を、夫婦ともに2回まで分割して取得することが可能になった。
■教育にも全力を注ぐ
女性の夫は、今回は上司から「育休を取りなさい」と言われ、2週間の育休を取得予定だという。女性は、半ばあきれたようにこう話す。
「世の中が進んでいるなとは思いました。一方で『いまさら何?』と戸惑っています。夫は在宅勤務で、ただでさえオンとオフの切り替えが難しい。今回は育休を取れるけど、どうせ仕事しちゃうんでしょうね」
5年前に『ワンオペ育児』という著書を出し、その言葉を広めた明治大学の藤田結子教授(社会学)はこう指摘する。
「夫側はもちろん、育児の責任は妻という意識が妻側にもあり、子どもの将来や友人関係の細部まで常に思案をしている。欧米やアジアでも同じ傾向はあるものの、日本はその役割意識がより強い」
特に、現在の子育て世代は親が「稼ぐことを求められている父親+専業主婦(パート)」の組み合わせが多いために、それ以外の生き方をイメージしにくいのだという。
さらに、妻側の負担が減らないもうひとつの要因は、子どもを取り巻く教育環境の変化だ。以前は就学前に習い事をさせるのは今より少なく、中学受験も首都圏であってもそこまで過熱していなかった。だが、いまは仕事と家事、育児に加えて、子どもの教育にも全精力を注がなければならなくなっている。共働き世帯が増えたゆえに、「働いているから教育まで手が回らなかった」という言い訳が通用しなくなっているのだ。