「おそらく研究者だったら、タクシー運転手さんたちの幽霊譚は見過ごしていたと思います。学生たちは素直に現場の声を拾ってきますからね。亡くなった家族と夢で邂逅するという話もそうですが、こちらはその人たちが経験したことや、何を大切に思っているか、すべて受け入れる覚悟で耳を傾ける必要がある。科学とか非科学とか分析することも必要ですが、まずは現実を受け止めるところから入っていくということが重要なのです」(金菱さん)
タクシー運転手は見ず知らずの人たちを乗せているわけで、家族や親しい人を亡くした際に起きるとされる「悲嘆幻覚」とは状況が違う。だが、駒ケ嶺さんはこう見る。
「東日本大震災の発生後、現地のタクシー運転手さんが幽霊に遭うのも、やはり鎮魂の思いによるものではないでしょうか。悲しみも後悔も、社会的に共有しているということだと思います」
■脳に刺激を与え体外離脱を再現
これまで心霊現象やオカルトとして語られることの多かった「臨死体験」や「体外離脱体験」についても見ていきたい。
身体から心が分離して眠っている自分の姿を空中から見た経験のある人はいるだろうか。瀕死の状態にある時に亡くなった家族と会う、暗いトンネルを通る、花畑が見えるなどといった体験をすることもある。
実は、悲嘆幻覚と異なり、こうした体外離脱体験や臨死体験は現在の脳科学で解明が進んでいる。体外離脱体験は、健常者の1割が経験ありと回答した調査結果もある。これらは脳の「側頭頭頂接合部」の活動で引き起こされることがわかっている。側頭葉と頭頂葉、後頭葉の境目で、複数の知覚を統合する部位と考えられている。
脳細胞は微弱な電気を流しており、電気信号を送ることで思考や運動などを司っている。スイスの脳外科医、オラフ・ブランケがてんかん患者の側頭頭頂接合部を刺激したところ、体外離脱が誘発されることを発見。02年に英科学誌ネイチャーで発表した。