「体外離脱体験や臨死体験は、個体の生存を有利にするための現象とも考えられています。人が瀕死の状態に陥った時などに、神経の情報伝達を担うNMDA受容体の機能を低下させることで、脳細胞死の指令を停止させる信号になる。この時、鎮痛、幸福感、意識を保ったままの幻覚、筋肉の硬直、抗うつ作用なども起こります」(駒ケ嶺さん)
臨死体験が起きる条件がそろったイメージだが、この現象は進化論的に見ると、小動物が捕食の危機を逃れるための手段「擬死=死んだふり」に似ているという。擬死はオポッサムやカエル、テントウムシなどで研究が進んでいる現象で、窮地で個体の生存を有利にさせることができる。
臨死体験や体外離脱体験はオカルトなどではなく、脳の中で現実に起きていることなのである。
■遺体の改葬通じ意識が変わった
ところで、生者にとって死とは、どんな意味を持つのだろうか。金菱さんの「霊性の震災学」プロジェクトでは、遺体についても研究が行われた。
震災の直後には、あまりにも多くの亡骸(なきがら)が遺体安置所に搬送された。そのうえ火葬場も被災し、使用できない状態になっていた。そこで、いったん遺体を仮埋葬の形で土葬し、2年後に白骨化した遺体を掘り起こす計画が決まった。
宮城県石巻市の葬儀社が993体もの遺体の土葬を終えたのは、4月24日のこと。だが、遺族の気持ちに応え、わずか2週間後の5月7日から掘り起こしと火葬による改葬が始まった。当時の状況を、ゼミ生だった小田島武道さんが取材した。小田島さんがこう語る。
「ご遺族の方の『2年間も娘を冷たい土の中に埋めておくことは耐えられない』との声に応えたいとの思いが強かったと聞きました。業務は約3カ月間続き、672体を掘り起こした。その間、遺体がどんな状況になっているのか、作業がいかに苛酷なものになるのか、葬儀社の人たちはよりリアルに想像できていたはずです。それでも実行へ踏み切ったのは、ご遺族の思いをくみ取れる葬儀社だったからだと思います」