遺体が入れられた納体袋の中は血液と体液、雨水が混じった状態で、腐敗臭が漂った。作業には9人の固定メンバーが選定された。人選をしたリーダーはスタッフにこう言い聞かせた。
「ご遺体に敬意を抱かなければいけないし、尊厳を守ろうと思わなければいけない」
小田島さんが言う。
「私自身のご遺体に対する意識が変わりました。荼毘(だび)に付すまで、やはり人なのだということを実感しました」
金菱さんは16年に亡き人に手紙を送るプロジェクトを立ち上げた。6歳の娘を亡くした母親に手紙を書いてもらうことになった。
「ところが、そのお母さんはなかなか手紙を書けないとおっしゃった。理由をお聞きすると、生きていれば11歳になるので手紙を書く時に漢字で書いたほうがいいのか、ひらがなで書いたほうがいいのか、そこから迷い始めて苦しくなり、筆を進められなくなったというのです。ご遺族は二重の時間を生きておられるのです。時が経てば人の心は安定すると考えられがちですが、そのことに疑問を感じ始めました」
駒ケ嶺さんはこう語る。
「死は『生の途絶』ではないはずです。家族や親しい人の死はそこで終わりという類のものではなく、心の中で灯され続けるのです。死後も冒険は続くと、個人的には解釈したいと思っています」
亡くなった者と、残された者の絆は切れることはないのである。(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2022年9月23・30日合併号