人に貸すことができるのか、更地にして駐車場にすれば収入は見込めるのか。売れなかった場合の維持費はどのくらいかかるのか。細かくシミュレーションしておくことだという。

 静岡県の会社員男性(60)は実家じまいをめぐって、親戚と絶縁状態に陥った。

 メロンの専業農家だった実家は、築150年の平屋で、広い敷地内にはメロンの温室が6棟あるほか、車庫、鶏小屋、ボイラー室などがずらり。田んぼやみかん畑もある。

 約15年前に父が他界した時、男性は、実家にかかる年間の維持費をエクセルに書きだした。固定資産税、火災保険、水道と光熱費、自宅のメンテナンス費、除草費用、ガソリン、自治会費……。支出は、最低でも月25万円にのぼることがわかった。

 交通の便の悪い田舎町で、売却先が見つかる可能性は低い。更地にするにも約1千万円が必要だった。

「とても払えないと思いました。母が亡くなったら、すぐに手放すしかない」(男性)

 だから、12年冬に母が亡くなった時にすぐに相続放棄の手続きをして、処分する方向で動き出そうとした。だが、妹は、初盆の席で「家がなくなっちゃう!」と大反対。結局、すべてを妹が相続したものの、重い維持費をめぐって決裂。以来、一切連絡を取っていないという。

 前出の松さんが「実家じまい」を考え始めたのは、母が70歳になった頃だった。

「母、私、妹。それぞれが自立し、三つの人生にいい意味でわかれていく手ごたえがあった」

 思い出を良きものに変え、新たな生活を始めるためには、“早め早め”が必須のようだ。

(編集部・古田真梨子)

AERA 2022年8月15-22日合併号

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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