きっかけは、母(75)の運転免許だった。実家は、北関東の主要駅から車で約20分の住宅街にある。車のない生活は考えられないが、かといっていつまでも運転はできないだろう。母は、16年前に父が他界して以降、ひとり暮らしで、「4人いたら狭いけど、1人だと広い」とこぼしてもいた。

 洋服が大好きで「着道楽」の母は、常にクローゼットがぱんぱん。

「終活を念頭に、モノを減らしたいという狙いもあった」(松さん)

 妹が同じ市内の駅近くのマンションを購入して息子と2人で暮らしていたので、母はその近くの賃貸マンションに引っ越す提案をすると、あっさり賛成してくれたという。

 だが、いきなり壁にぶつかった。高齢者が入居するとわかると、部屋を貸してくれないのだ。10軒近くの不動産屋を回り、娘2人が連帯保証人になることなどを提案したが全滅。高齢者専用の賃貸物件も増えているが、希望のエリアには見当たらなかったという。

「買うしか選択肢がないとわかって怖くなった。社会の受け入れ体制の脆弱(ぜいじゃく)さを知り、ぞっとしました」(同)

 心が折れかけた時、妹が、住んでいるマンションから徒歩圏内にある中古の一戸建てに一目ぼれをしたと言いだした。子どもが成長するにつれて、手狭さを感じていた妹は、引っ越しを即決。母は、妹のマンションで暮らせることになった。急に追い風が吹いたかのように、実家の売却先もあっという間に決まったという。

 片づけは、松さんが都内から週末ごとに通い、時に母とケンカしながら1年ほどかけて終わらせた。松さんは、大満足でこう振り返る。

「母の死後、妹と2人で実家を片づけるのはつらすぎる。みんなで笑いながら思い出を整理できたし、母自身にも人生を振り返ってもらうことができた」

■話し合いできているか

 実家じまいは、どの家庭でもうまくいくとは限らない。

 NPO法人「空家・空地管理センター」理事の伊藤雅一さんは言う。

「事前に家族間できちんと話し合いができているかにかかっている。親が元気なうちにどう準備を始めるかも重要です」

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