再生のきっかけは2008年度から総務省によって制度化された「ふるさと納税」にあった。
この数年、特産品を返礼品に掲げて納税者の心をくすぐり、自治体間で“税金の奪い合い”が過熱した。一部自治体の中には総務省が定めたルールを逸脱し、訴訟になったケースもある。財政難にあえいできた地方の懐を思えば、逸脱も致し方ないのか。同町も酪農品を中心に返礼品とし、制度の恩恵にあずかってきたが、特筆すべきは税金の活かし方だ。
たとえば、都会から専門領域を持つ人材を積極的に採用し、行政サービスの戦力とした。ITの知識にたけた者を情報通信員として町のPR活動に、さらに都会でデザイナーとして活動する者も呼び込み発信力を強化。何よりも成功の鍵はスタートダッシュにあった。
そもそも、ふるさと納税がこれほど多額の寄付金を地方にもたらすとは、誰が予想しただろうか? 上士幌町の竹中貢(みつぎ)町長(73)を除いては。
「これはチャンスだ! この制度は町が持っている資産や資源をPRする絶好のツールになる」
竹中町長は信じて疑わなかった。今や当たり前のSNSをいち早くスタートさせ、専用ポータルサイトを開設。町の魅力を発信し、返礼品の特典のPRなど民間並みのスピード感で動いた。職員も町長に触発され、どの町よりもすみやかに動き、「ない」ことまでをも町の資産にしてしまう嗅覚に優れていた。
山々に囲まれ多種にわたる植物も咲き誇る同町だが、スギ花粉は一切飛散し“ない”。そんな自然環境を利用したツーリズムだ。スギ花粉に悩む人が快適に同町の「ぬかびら源泉郷」に長期滞在しながら、免疫力などの効果を測定するヘルスツーリズム。これは旅行会社が新たな商品化に踏み出すヒントになった。
北海道遺産である「旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁(きょうりょう)群」は、半ば国から押しつけられた産業廃棄物同然だった。
歴史的鉄道遺産で“ある”には違いないが、扱いにはお金がかかるし厄介だ。といって老い朽ちるのを放置せず、展望台を設け環境整備を施し、蘇生させた。北海道のポスターにまでなった。今や、鉄道ファンの注目のみならず世界的な観光資源にまで昇華させたのだ。