少子高齢化や過疎化は深刻で、いずれは「消滅」の危機──。全国のどこにでもありそうな話だが、ここは違う。人口わずか5千人弱ながら、先進的で思い切った施策を次々と打ち出し、注目を集める自治体がある。ノンフィクション作家・黒井克行氏が地域再生のヒントを探った。
【写真】クリスマスの町の夜空を彩ったドローンによる光のショー
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昨年12月16日、日もすっかり暮れ落ち、紺青色に染まった北海道の寒空にひと足早いサンタクロースが浮かび上がった。ライトアップされた300機のドローンが織りなす光のページェントだ。
十勝管内上士幌(かみしほろ)町。先の東京五輪の開会式で大都会の夜空を飾った光のショーが、この人口5千人の酪農を中心とした町の夜空でも演じられた。
この1年間、コロナ禍で不自由な思いをさせられてきた町民へ向けた、役場のICT推進室が中心となった粋な計らいで、町民はさぞかし心を癒やされたことだろう。この光のページェントはクリスマスイブまでトナカイも町のゆるキャラ、ほろんちゃんも登場し、夜空で輝き続けた。
それにしても、都会を彩るはずのクリスマスの華やかなイルミネーションが軒並み中止になる一方、人よりも牛の頭数が圧倒する町で何故できたのか? 単にソーシャルディスタンスが十分に取れるだけでなく、最先端の技術もコストも相応に求められるはずだ。それをクリアするだけの力を持つこの町は一体……。
そもそも町レベルで役場にICT推進室が設置されていること自体、聞いたことがない。とはいえ、上士幌町も他の自治体同様、1955年の1万3608人をピークに2015年には4765人と人口は5千人を割り込み、過疎化と少子高齢化は深刻を極め、消滅可能性都市の一つにまで数えられていた。
しかし、その予想を大きく裏切り、ドローンがサンタクロースを描くばかりか、そのドローンによって町の買い物弱者のための配送の実証実験も行われ、全国に先駆けて準備が着々と進められている。一昨年までの5年間、町は人口が286人増えた。5千人規模におけるこの数字はかなりで、しかも「余生は田舎で」と都会から移住してくる定年退職組より、20~40代が移住者の7割を超えているから驚きだ。