生き物の命は大切。子どもの頃からそう聞かされてきた。なのになぜ、殺して食べるのか。そう問われたら、あなたはどう答えますか?(写真:gettyimages)
生き物の命は大切。子どもの頃からそう聞かされてきた。なのになぜ、殺して食べるのか。そう問われたら、あなたはどう答えますか?(写真:gettyimages)

■過程を知ることが大切

 カワグチさんにも気づきがあった。命を奪ってその肉を食べる。そのことを考えるのをこれまで避けて生きてきた気がする。そう話すカワグチさんに、田中畜産の運営者・田中一馬さんはこう話してくれたという。

「そんなもんですよ。せいぜい感じられる命っていうのは、自分自身の存在と、その周りとの『関係性』がある範囲でしか把握できないと思うんです」

 命の大切さを感じることは結局、その人の主観だ。その主観は対象との関係性によって異なる。同じ牛でも一度触れただけのカワグチさんと田中さんでは違う。関係性が深い田中さんがその牛を食べる時、単なるおいしいを超えた「特別な味」がするのだと聞き、驚いたという。

「出産から長ければ10年、牛を育てる中で『牛を育てた僕』と『僕に育てられた牛』という関係性が生まれる。僕は牛を身近に感じるし、その命を大切に思う。そんな牛に対して持つ主観は、味覚をも変えるんです、と。なるほど、つまりその命を大切に思える関係性を作るためにも、まず過程を知ることが大事なんだと気づいたんです」

 そうか、命の大切さを感じてもらう=過程を知ること、か。そう話をまとめようとする筆者に、カワグチさんが続けた。

「命の大切さについて感じることは、『みんなバラバラ』でいいと思います。子どもに過程は知ってほしいけど、その結果何も感じなくても、それはそれでいい。その後は本人任せ。感情や何をどう考えるかを親は強制できない。できるのはつまるところ『見せること、体験させること』かなと思いますね」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2022年2月14日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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