ぼくは遠藤の横に回り込み、背中を確認する。紫と赤が混ざった野球ボールくらいの発疹が背中に数カ所。その発疹の中に円盤のようなフケが混在している。
鈴木院長の言葉「見たことない発疹ができてるんだよね」が脳内に再生する。
なんだこれ。
こんな病気は教科書で見たことがなかった。ぼくはうっすらと背中に冷や汗が出るのを感じた。
「遠藤さん、電気をつけてもらえませんか?」
遠藤が返事をする前に加藤の声が部屋にトゲトゲしく響く。
「大学病院の先生ともあろう方がわからないものかね」
遠藤は加藤を刺激しないようにさっと部屋の電気をつける。室内灯に照らされた発疹をまじまじと見てもぼくにはそれがなにかわからなかった。
「かゆがりますか?」
「医者なら見たらわかるだろ。夜中になんども起こされるよ」
確かに掻き傷などあれば、かゆみがあるかどうかは見ればわかる。ただ、それは体が自由に動く人の場合だけだ。寝たきりの人では、実際にかゆいかどうかは患者の声を聞くしかない。そしてその声を聞けるのは患者と一緒に生活する家族だけだ。
「そうですか」
ぼくは怒りを抑え返事をした。
それにしても、これはまずい。なんの病気か全くわからない。
(後編に続く。後編は3月4日に配信予定)