大塚篤司医師
大塚篤司医師
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 医師が主人公、あるいは医療現場を舞台にした医療ドラマや医療漫画は数多くあれども、なぜか皮膚科医が主人公のものは存在しない……。それを寂しく思っていた現役皮膚科医で近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師は、前回「なぜ医療ドラマや漫画の主人公に皮膚科医はなれないのか? 皮膚科医の寂しさと野望」で皮膚科医が主人公でも漫画やドラマは作れる!ということを感じたといいます。今回は、実際に原作となるストーリー製作にチャレンジします。

【写真】『コウノドリ』のモデルになった医師

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 皮膚科医が主人公の漫画やドラマは存在しません。皮膚科医をやっていて面白いのは、診て触れただけで病気がわかるだけでなく、患者さんの生活まで推理できてしまうことです。ときにシャーロック・ホームズのようにすべてを解決できる皮膚科医はきっと物語の主人公になれるはず。根暗な存在として皮膚科医が認知されるのは嫌なので(いや、そんなこと全くないんですけど。笑)、勝手に責任を感じた私は皮膚科医が主人公のちょっとした物語を書くことにしたのでした。

(以下、フィクションの小説)

■見たことのない発疹

 ぼく(工藤順一<くどうじゅんいち>)が訪問診療のバイトをはじめたのは、ただ単に大学院生になってお金がなかったということと、医局長から「変なバイトがあるけど行ってみない?」と声をかけられたタイミングが重なったためだ。

 その年はちょうど皮膚科専門医試験に合格したばかりであり、南海大学大学院に進学して皮膚免疫の研究を開始した直後であった。自分で言うのもなんだが、その頃のぼくは“わからない病気はない”という自負があった。まぁ、それは言いすぎだとしても、少なくともこの大学病院で一番皮膚疾患に詳しいのは自分だと信じていた。

 大学病院ではバイト先は医局の関連病院からあてがわれることが多い。大抵は総合病院の皮膚科外来を任されるのだが、かつて医局に在籍し、そこから開業した医師のクリニックを手伝いに行くこともある。4月からぼくが担当した「変なバイト」は医局を卒業した先輩医師が開業した小さなクリニックであった。

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