ウクライナの学生、インターンシップ生たちでハロウィンパーティー。食べ物飲み物は各自持参で、会場は参加者の自宅だった(筆者・右下)
ウクライナの学生、インターンシップ生たちでハロウィンパーティー。食べ物飲み物は各自持参で、会場は参加者の自宅だった(筆者・右下)
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 ちょうど1年前、我が家は約5年暮らしたアメリカから日本に引っ越してきました。「やっぱり日本のほうが暮らしやすいから?」「子どもの教育にはこっちのほうがいいの?」といった質問を受けることがありますが、どちらがよりよい・悪いという思いはありません。偶然日本・アメリカ2カ国出身の親を持った子どもたちに、日米両方の文化を経験させたいという考えのもと引っ越しを決めました。

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 ただ、「日米両方の文化を経験させたい」という考えはただの勘違いではないかと思うこともあります。バイカルチャー、多文化家族、などといっても、結局はカフェに入ってチョコレートパフェとストロベリーパフェの2種類を食べさせて異文化経験だと喜んでいるようなものではないのか、と。

 大学時代、こんな経験をしたことがあります。2009年の秋から冬にかけて、国際インターンシップの一環でウクライナに滞在したときのことです。親しくなったウクライナ人の女の子とふたりで週末遊ぶ約束をし、しばらく散歩したあと、カフェへ入ることにしました。席に着き、注文を取りに来たウェイターさんに「コーヒーとブリンチキ(ウクライナ風クレープ)」と告げてあなたは? と友人のほうを見ると、彼女は何も頼まないというのです。「ブリンチキなんて家でも作れるもの」と。そして、わたしがコーヒーとブリンチキを口に運ぶのをじいっと眺めながら、おしゃべりを続けるのでした。

 あなたは、相手がコーヒー1杯飲まずにいる席で自分ひとり飲み食いした経験がありますか? わたしはそのときが初めてでした。経験のある方はおわかりだと思いますが、この状況は想像以上に調子が狂います。友人ともっと親しくなりたいと思って入ったカフェでしたが、おしゃべりなんてできたものじゃない。気まずさに押しつぶされそうになり、わたしは大好きなブリンチキをコーヒーで流し込んで早々に席を立ちました。

 また別の日。国際インターン生は、わたしのほかにも十数名いました。ドイツ、ポルトガル、ニュージーランド、インドネシア──世界各国から大学生が集まっていました。大学生が集って行うことといえば、万国共通、飲み会です。特にウクライナはウォッカが信じられないほど安く、我々インターン生は金曜日の夜にわらわらリカーショップへ繰り出し、ウォッカ各種とおつまみを買い込んでシェアハウスで酒盛りを始めました。インターン生の世話をしてくれているウクライナ人の学生たちにも「酒持ってこーい!」と声をかけ、楽しく宴会をする予定、だったのですが。

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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ウクライナ人学生からの意外な答え