それは2022年の今も恐らくそうで、ドネツク出身の友人たちに「大丈夫? ニュースを見て心配してるよ」とメッセージを送っても、「すべて順調」とか「今起きているのはウクライナ全体にとって必要なことなの」といった言葉が返ってきます。「大丈夫って? オミクロンなら平気よ」という調子の人もいます。見ているニュースの内容が違うのではないかと疑ってしまうほどです。

 真面目に働いても仕方ないと肩を落とす若者。ロシアに加われば旧ソ連時代のような豊かさが戻ってくると目を輝かせるおじさん。一生のうち一度でも日本に行けたらいいのになと笑う子ども。彼らは聡明で陽気で無邪気で、話しているととても楽しかったのですが、言葉を交わすたびに「本当の友人になるのは無理じゃないか」という絶望感に襲われました。社会経済に対する価値観が、日本人の自分と決定的に違うからです。

 そこへいくと日本とアメリカは、程度の差はあれ同じ民主主義国家だし、先進国だし、各国のパスポートがあれば大抵の国に行くことができるし、銀行に預金する前に「このお金、どこかへ消えてしまわないかな?」と疑う必要もない。友人を作るのも、住むのも、結婚するのも、日米間なら比較的簡単です。そんな似通った国の間を行き来して多文化経験とは片腹痛いわ、とウクライナの友人たちに笑われてしまうような気がします。

 ともあれ願うは、ウクライナの平和です。一体どうなるのが最適なのかは日本人的な価値観からでは判断がつきませんが、どうかこれ以上争いが大きくなりませんように。ナイフでブリンチキを切るわたしの手元をじっと見ていた女友だちの瞳を思い出しながら祈ります。

〇大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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