■「2回目の人生生きとる?」 信頼得るために感情整える
出馬に当たり東は、過去10年分の市議会議事録などあらゆる資料に目を通し、市政の人間関係から四條畷が抱える課題までを徹底的に分析した。当時の四條畷は5年で子どもが15%も減るという子育て世代には魅力のない町になっていた。
松田が驚いたのはもうひとつ、選挙の戦い方だった。ミニ集会を開くことはアドバイスしたが、東はどの集会でも時間制限なしで質問を受けた。全ての質問にわかりやすく応じる様子に、最初踏ん反り返って座っていた年配の男性たちも前のめりになっていった。
「ここまで準備している候補者は、私が手伝った250の選挙でも初めて。集会で話せたのは1千人足らずでも、直接話した人はこういう人が市長になるべきだと感じ、口コミで支持が広がったのだと思います」(松田)
時間があれば本を開くという東の書棚の半分は、チャーチルや大隈重信など歴史上の名だたる指導者に関するものや政治思想、中国の古典が占める。残りは行政のトップとして、マネジメントや組織作りに腐心してきたことが窺えるビジネス書だ。
一段だけ毛色の違う棚には作家、辻村深月の著書が並んでいた。東は書店でのサイン会に並ぶほど辻村作品のファンだ。「出てくる子どもが俯瞰(ふかん)した視点で世の中を見ているところが自分とどこか似ているから」という。
母、和子(68)から見た東は、一度も声を荒らげたりすることのない子だった。幼稚園の時には泣きながら帰ってきて、「先生に『子どもは風の子』と言われたけど、僕、お母さんの子だよね?」と聞く様子に、「こんなに純粋で大丈夫か」と母は心配した。小学校で始めた野球は、「(コーチなどの)乱暴な言葉に耐えられない」とやめた。
それがいつからか周囲に、「東くんは2回目の人生を生きとる?」とからかわれるようになった。いじめがあっても双方に静かに声をかけ、その場を収めるなど大人びたところがあったからだ。その様子を教師から聞いた和子は「その冷静さはどこから来るん?」と思ったが、東は小学4年生でクラス委員になってから常に「みんながどうしたら楽しく過ごせるのか」を考えていたという。
「最初はせっかく同じクラスになったんだから、みんなが楽しい方がいいやんぐらいの気持ちでした。中学校でもリーダーをやるうちに、自分が感情的になると誰も付いてきてくれないことが何度かあって落ち込んで。感情をどうコントロールすればいいのか考えるようになりました」(東)