マレーシアに帰国後、ラダック地方の五体投地について調べているうちに、「ゴチャック」という言葉を見つけた。
「いったいゴチャックって何だろう、と思って、ラダックで知り合った方に電話やメールで問い合わせると、チベット暦の正月に行う巡礼行事だということはつかめたんですが、それ以上のことは分からない。とりあえず、また行ってみようかと思って、2017年の冬に訪れた」
ラダック地方の中心地、レーの町からチャーターした車を走らせると、偶然にも五体投地に出会ったスクルブチャンの村から巡礼の一行が出発することが分かった。
■いきなり出会った巡礼者たち
車がスクルブチャンに到着する直前、ドライバーが声を上げた。「三崎さん、あそこ!」。指さした先の路上をはう人々の姿が目に入った。村を出発して間もないゴチャックのパーティーだった。
「ああ、これや、みたいな感じで車を降りて、それから彼らにずっとついて写真を撮らせてもらったんです」
突然、カメラを手に現れた三崎さんに対して、彼らは訝(いぶか)しがらなかったのか?
「『なんで写すんや?』と聞かれて、『いや、素晴らしい。私の記憶だけじゃなくて、記録として残しておきたい』と言ったら、すんなり『そうか』と」
日が暮れて、パーティーが村に戻ると、「これからどこまで行くんや? なんでこんなことをしてるんや?」と、それまで疑問に思っていたことを彼らにたずねた。
巡礼の参加者は約15人。目的地はスクルブチャンから40キロ近く離れたラマユルという集落にあるゴンパという。食事や飲み物をつくるキッチントラックと送迎用バスがパーティーに同行し、3人のサポーターが彼らの世話をする。日が暮れると、出発地点の村か、中間地点に設けたキャンプにバスで戻る。朝5時ごろ起床し、前日歩いて行った場所までバスで行き、そこから再びスタートする。
■ひたすら他者の幸せを願う
1日の移動距離は3キロにも満たない。巡礼者たちは五体投地を繰り返し、粘り強くゴンパへと進んで行く。その間、大声で真言(マントラ)を含む祈りを大声で唱え続ける。
その祈りは自分のためでも、家族のためでもなく、ひたすら他者の幸せを願うという。
「なぜ、自分や家族のためにお祈りしないのか? いろいろな方に聞くと、他者の幸せをお願いするということは、ほかのみなさんが私のためにお祈りしてくれることでしょう、と言う。なるほどな、そういう考え方なのか、と納得しましたね」