ジャガー (C)Mitsuaki Iwago
ジャガー (C)Mitsuaki Iwago

■いきなり毎日ジャガーと遭遇

 岩合さんがパンタナールの存在を知ったのは約35年前。アフリカ・セレンゲティの特集を「ナショナルジオグラフィック」で組んでいたとき、編集者から「次はどこを撮るんだ?」とたずねられた。「オーストラリア」と答えると、「パンタナールはどう?」と言われた。

「調べてみると、撮りたかったジャガーがいることがわかった。でも、当時、ジャガーを見ることはとても難しかった。1年滞在しても撮れないといわれていた。道もない。そんなわけでパンタナール行きに二の足を踏んで、動きだしたのは2010年を過ぎてからですね」

 ある日、パンタナールで撮影したジャガーの写真が目にとまった。それは釣り人が撮影したものだった。

「その写真がSNSで広まると、ジャガーウオッチングに火がついたんです。観光客がやって来るようになると道路が整備された。観光は『ボートで巡るサファリツアー』という趣なんですが、最初は2~3艘だったボートが、観光客を急増して20艘、30艘と増えた」

 岩合さんを案内してくれたのは、ジャガーのことなら何でも知っているという「ミスタージャガー」こと、ジュニヨさん。

「初めて訪れたときは、1週間しか滞在しなかったんですよ。それなのに、毎日ジャガーが見られた。すごくびっくりしました」 

フサオマキザル (C)Mitsuaki Iwago
フサオマキザル (C)Mitsuaki Iwago

■ついに撮れたジャガーの狩りの一部始終

 しかし、ただジャガーが写っているだけでは意味がない。

「歩いたり、昼寝をしたり。そんなジャガーの写真だったらいくらでもあります」

 何としても撮りたかったのはジャガーが獲物を仕留めるところだった。

「観光客のボートは川を上り下りしてジャガーを探すんです。で、見つけたら無線で仲間に知らせる。すると、ボートが集まってきて、獲物となるワニが逃げてしまう。ジャガーも狩りを諦めて森に入ってしまう。その繰り返し」

 一方、ジュニヨさんは「ジャガーの味方なので、絶対にジャガーの前に出ようとしないんですよ」。そして、「大丈夫、きっと撮れるから。前に出るよりもジャガーの動きをフォローしたほうがいい」と、岩合さんを諭した。

「彼によってぼくはパンタナールとジャガーについて教えられたような気がしますね」

 決定的なシーンが撮れたのは3回目の訪問だった。観光客はエアコンの効いたロッジに戻って昼食をとる。岩合さんはボートの上で弁当を食べながら粘り強くジャガーが現れるのを待つ日が続いた。

「ある日、川の中州にボートを泊めて、弁当を食べ始めた。ミスタージャガーが日よけの布を下げようと立ち上がったら、バシャーン、って、水音がした。彼は叫び、岸辺の崖から川に飛び込んだジャガーが鋭い牙でワニの首を仕留めた様子が目に飛び込んできた」

 ワニは体長3メートルもある大物だった。ジャガーはその場では獲物を食べない。他のジャガーに見つからないように、茂みの中に隠そうとする。

「自分よりも大きいワニをくわえて、顎の力だけで崖の上に運び始めた。すごいなあ、と思いましたね」

 30分後、ワニが崖の上に消えたとき、考える間もなく、ジュニヨとハイタッチした。

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