パラグアイカイマン (C)Mitsuaki Iwago
パラグアイカイマン (C)Mitsuaki Iwago
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 世界有数の野生動物の生息地として知られる南アメリカ中央部に位置するパンタナール。その面積は広大で、日本の本州に匹敵する。雨期になると川が氾濫し、1年のうち半年が水に浸かるこの土地は、金色の猛魚「ドラド」が釣れる場所としても知られてきた。

【岩合光昭さんの作品はこちら】

 45年前、作家・開高健はブラジル釣り紀行の取材でパンタナールを訪れた際、小型飛行機でこの地に降り立ち、「贅沢でも何でもなく、奥地に飛ぶにはこれしかない」(『オーパ!』集英社)と書いた。要するに当時、パンタナールには道がなかったのだ。

スミレコンゴウインコ (C)Mitsuaki Iwago
スミレコンゴウインコ (C)Mitsuaki Iwago

■「すごいところに来ちゃったな」

 岩合さんが初めてパンタナールを訪れたのは4年前。サンパウロから飛行機で主要都市クイアバに降り立ち、そこからパンタナールのポルト・ジョフレまでは車で約250キロの道のりだ。

「あちこちに水たまりがあって、そこからチョウが踊り出すように車の周囲に舞い上がった。車を止めて撮影していたら、カピバラが悠々と目の前を通りすぎた。ドライバーに待っていてもらったら、今度はアナコンダが横切った。これはすごいところに来ちゃったな、と思いましたね」

 これだけ多種多様な動物がいて、しかも人間を恐れないのはとても珍しいという。

「同じブラジルでもアマゾンの動物はすぐに逃げちゃうんですよ。人間がやって来ると狩猟で殺されてしまうのを知っているから。だからカピバラを見つけても200メートルくらいまで近づくと姿を消してしまう。なので、写真は撮りずらいんです」

 広大なジャングルというイメージのアマゾン。しかし、実際は相当奥地まで開発が進んでいるという。一方パンタナールの入植者は少なく、牧場があるくらいだ。その牧場も原野とほとんど変わらない。

「要するにパンタナールは『氾濫原(はんらんげん)』で、お金にならない土地だった。だから開発を免れた。それで豊かな生態系がほぼ手つかずのまま残された」

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いきなり毎日ジャガーと遭遇