厳しい受験競争を勝ち抜き、第1志望に合格した子どもたちは、誇らしい気持ちで春からの新生活を満喫している――と思われがちだが、実はそうとも限らない。特に難関校の合格を勝ち取った子どもこそ注意すべきなのは、「受験後うつ」の兆候だ。症状が悪化すると、イライラして暴言を吐いたり、家庭内暴力に発展したりすることもある。この時期、いわゆる“受験エリート”に何が起きているのか。受験を専門に扱う心療内科「本郷赤門前クリニック」院長の吉田たかよし医師に、「受験後うつ」の原因や親が気を付けるべきポイントを聞いた。
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「受験後うつ」はなぜ起きるのか
「頭がいいと褒められて育ってきた、いわゆる“地頭がいいタイプ”が要注意なのです」
吉田医師は「受験後うつ」になりやすい子どもの特徴をこう話す。なかでも、親の関与が大きい中学受験で、「御三家」などの難関中学に合格した子どもが発症するケースが多いという。
一体なぜか。
吉田医師によると、「地頭のよさ」というのは幼少期の脳の使い方によるところが大きく、子ども本人が自覚をしていない時期に親が熱心に教育へ取り組んだ結果のあらわれだという。だが、子どもはこれを勘違いして、「頭のよさ」は持って生まれた特別な能力と捉えてしまう。受験期に勉強を始めると、そう努力をしなくても難解な問題をすらすらと解けてしまうからだ。周囲からは羨望(せんぼう)のまなざしで見られ、自分は特別な存在なのだという「自己愛」がむくむくと膨らんでいく。そして、実際に難関校に合格することで「自己愛」は最高潮に達するのだという。
「この自己愛が最大限に膨らんだ状態で難関校に入学し、新しい環境でそれが否定されたとき、うつの原因となるのです」(吉田医師)
難関中高一貫校には、当然、地域のトップレベルの頭脳の持ち主が集まってくる。その優秀な生徒たちがさらにコツコツと勉強を続け、しのぎを削りながら、6年後の大学受験を目指していく。必然的に目標となるのは、東京大学をはじめとする超難関大学となる。
そうした精鋭集団では、相当の努力をしなければついていけなくなる。つまり、「地頭のよさ」だけでは戦えず、それに頼ってきた子どもは成功体験が通用しなくなるのだ。成績が振るわず、周囲から褒められないのは「頭がよい自分」という存在意義が否定されることを意味する。焦燥感がつのり、子どもにとっては大きなストレスとなる。