重症化する前に家庭でできること
ただ、いきなり親に暴力をふるったり、家庭内で暴れたりするわけではない。そうなる前に、「受験後うつ」には兆候があるという。
わかりやすいのは、ゲームやスマホへの過度の依存。深夜までゲームなどに没頭し、朝起きられなくなり、登校を渋るようになる。決まった時間に食事をとらないなどの生活習慣も乱れてくる。こうなると、他人の注意や考えを全く聞き入れなくなる。この年代の反抗期は耳で聞いたことに反発するのが一般的だが、うつ症状があると全てをシャットダウンしてしまい、衝動的に「うるさい!」と反応するようになる。
生活習慣の乱れを目の当たりにすると、親としては口うるさく注意したくなってしまうが、これは控えた方がいいという。
「あえて放っておくことも大切です。そもそもメンタルは大人でも子どもでも一定ではなく、安定期と不安定期を繰り返しています。とくに思春期はホルモンの関係で、この変動が大きい。よく子どもの様子を観察し、メンタルが安定しているときが、声をかけるチャンスです」(同)
特に翌日から学校が休みになり、ストレス負荷が低くなる金曜日の夕方や土曜日に声をかけるのがいい。食事後のリラックスしている時間も効果があるそうだ。その際には、「ゲームをやめなさい!」「勉強しなさい!」と高圧的に注意するのではなく、「これからどうする?」と問いかけることで、子ども自身に生活を改善するルールを考えさせることが大切だという。さらにそのルールを紙に書いて、壁に貼るところまでやらせる。最大のポイントは、ルールを守れたときにその努力を褒めること。守らないときは放っておき、守れたら次のルールへというプロセスの繰り返しが必要という。
多くの受験うつの子どもやその家族を診てきた吉田医師だが、それでも中学受験をすることには肯定的だ。
「中学受験のメリットは、学力の向上とともに、困難に負けない力を養うことにあります。人生で初めて、大きな関門を自分の意思で乗り越えていく挑戦を小学校時代に体験することは、その後の大学受験や社会人生活への強い基盤になるはずです」
その挑戦を子どもにとってプラスにするか否か、子どもと向き合う親の力も問われることになる。
(AERA dot.編集部・市川綾子)
●吉田たかよし
医学博士・心療内科医師。灘中・高校を卒業後、東京大学工学部、東京大学大学院工学系研究科を修了。NHK入局後、北里大学医学部を経て東京大学大学院医学博士課程を修了。受験生専門外来「本郷赤門前クリニック」を開設。